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香港労働法 Hong Kong Labor Issues #55 日本人のための香港労働問題研究:雇用条例 (Employment Ordinance):日本語版 第4部

Updated: Jul 11, 2021


FILE PHOTO: Working in a warehouse.  ©WiX
FILE PHOTO: Working in a warehouse. ©WiX

最新の香港の労働情勢


コロナの第4波が既に終息し、2021年7月(中国返還24周年)になり、梅雨と猛暑の中、連日Zero COVID (コロナゼロ)状態に近付いた香港は、マカオや大陸との早期の観光客往来回復を狙う段階と社会的なムードに入り、第5波の予兆は幸い見られない。しかし、本稿執筆現在も市民への防疫措置は未だ完全解除されていない。従って、コロナへの緊張状態と社会的な厳戒態勢は継続している。


ここ最近の労働法制に関する重要な政策上の変更(もちろん香港の全労働者階級に影響)は以下である。


1、小額薪酬索償仲裁處Minor Employment Claims Adjudication Board; 少額賃金給与専門に扱い、弁護士なしで請求する裁判所)における受理可能な請求金額上限が、1997年中国返還以来初めて上方修正される。当該裁判所で少額請求できる金額上限は2021年9月17日から15,000香港ドルになる。これは、香港の全体の法改正の傾向そのままで、量的な制度変更に限定されている。


處理打工仔薪酬爭拗的小額薪酬索償仲裁處,屢被批評其可受理個案的金額上限,24年來一直未曾調升、脫離勞動力市場情況。勞工處今(7日)向立法會遞交文件,建議上調仲裁處的司法管轄權限,由上限8,000港元增至1.5萬港元。有關法例將於周五(9日)在憲報公布,並採用先訂立、後審議的程序,預計可於今年9月17日起生效。(1)

2、2021年僱傭(修訂)條例草案 (2021年雇用条例修正案の政府法案) が、立法会で三読と言われる三回目の審議と出席した民選・各業界代表の議員投票で2021年7月7日に通過した。これを受けて、2022年から2030年まで8年かけて法定祝日をいわゆる銀行暇日という金融業界や公務員が特権的に享受している英国由来のバンク・ホリデー (bank holiday) の年間17日と、100万人を超える肉体労働者やその他一般の労働者が従来から強いられている通称労工暇の年間12日の祝日 (statutory holidays; 法定假期) の統一が確定した。


問題は、香港の労働者階級は従来の植民地下の階級分化政策の一環で形成された年間法定休日の社会的差別、不平等に対して即時統一を一貫して主張するべきであるが、立法会の実質的な立法者は政府であり、いつもの様に政府議案を通さないと振り出しにして、又何年も先送りする事を仄めかされると建制派議員たち(彼らはあくまで、体制派の一翼であり、日和見主義で、多国籍企業からなる香港の独占資本の寡頭支配に経済的に依存し、しかも日本のマスコミが翻訳において意図的にミスリードしている様に、全員親中というわけではない)は萎縮してしまう。


そして、先に批判をしておいて最後に態度を変えて賛成票を投じるという事を繰り返している。反対派陣営が消滅した後、今年からこうした前後自己矛盾した票決劇の、この短期間でマンネリ化した感のあるパターンの再現が、彼らへの労働者側の累積した不満や不信の要因になっている。さらに、立法議員側に実権がない構造も影響している。


中でも、誠意も闘志もない労働貴族たちの投降主義には毎度失望させられる。彼らは、盲従的に政府議案(出席した民選議員の側と各業界団体の代表議員の両方の側で過半数を必要とする個人議案とは対照的に、文字通り出席議員の過半数の賛成だけで通過)への賛成票を投じるだけの装置でしかない。


勞工及福利局局長羅致光表示,明白並非每位議員完全認同條例草案中,每兩年增加一天法定假期的部分,亦有議員提出修正案,加快及延後增加假期的速度。羅指政府已在充分權衡改善勞工福利及商界承擔能力下,才審慎制訂立法建議,堅決認為其他方案均有失平衡及不可接受,希望議員以改善民生為本,通過政府提出的條例草案,並反對所有修正案,按序逐步落實增加法定假日。羅又強調,如議員提出任何的修正案獲通過,政府將會無奈地、毫不情願的情況下,在三讀投票前被迫押後處理整條條例草案
最終,《2021年僱傭(修訂)條例草案》三讀通過,議員提出的修正案全被否決。(2)

3、2021年僱員補償(修訂)條例 (2021年被雇用者補償条例修正) が、2021年7月2日より発効した。基本的には、これまでは法的には労災認定しなかった台風(1時間の最大風速185キロ以上)やその他大規模な自然災害時の出勤及び退社時間時の事故に関して、当該職員の死亡や仕事能力喪失をもたらした場合に労災認定し補償する事になったのである。重要なのは、台湾の様に政府命令で災害被害が予想される台風などの場合は、出勤・通学停止にできる法的拘束力ある直接的な仕組みと、その場合の資本の側の懲罰からの労働者の権益保護である。後者が相変わらず致命的に欠如しており、今回の香港の2021年被雇用者補償条例修正は僅かな改善で、運用面ではやはり悪天候時でも極端な状況の期間の定義や政府の社会的判断が曖昧で、往々にして警報発出が遅く、出勤判断に困惑し、とりあえず遠隔地に住んでいるので遅刻しない為に、出勤せざるを得ないという労働者たちの存在が問題点である。労働者の安全と権益保護が共に不十分なままだからである。


ついでに言うと、香港で法律とはあくまで条例であり、守則は法律ではなく拘束力がないザルである。


修訂第 5 條 ( 僱主就意外引致僱員死亡或喪失工作能力而支 付補償的法律責任 )
(1) 第 5(4)(f) 條,在 “期間內,” 之後 —— 加入 “或於極端情況公布所指明的極端情況存在期間 ( 包括延展期間 ) 內,”。
(2) 在第 5(4)(f)(B) 條之後 —— 加入
“(C) 極 端 情 況 公 布 (extreme conditions announcement) 指政務司司長作出的公布,以述明由超強颱風或其他大規模天災引起的極端情況,在該公布所指明的期間 ( 包括延展期間 ) 存在; (D) 超強颱風 (super typhoon) 指以下颱風:接近颱風中心之最高持續風速達每小時 185 公里或以上者;”。(3)

立法會今午審議《2021年僱員補償(修訂)條例草案》,有關修訂建議包括讓僱員在上下班前後4小時內遭遇意外受傷或死亡,會被視作在受僱工作期間因工遭遇意外,同時加入「極端情況」公布及超強颱風的定義。身兼該條例草案委員會主席的勞工界議員陸頌雄發言時,指當時打工仔在車站等候數小時上班,惟卻有涼薄僱主扣取遲到員工假期及薪金,事件反映勞方一直處於弱勢及被動地位。陸又不滿政府當時只呼籲僱主多包容,不要扣減因風災而遲到的員工薪金,批評政府「天真」。他又指雖然政府修改了《颱風及暴雨警告下的工作守則》,在取消8號風球後,容許政務司司長宣布市民在極端情況下首兩小時不用啟程上班的建議,但守則是無法律效力如「無牙老虎」。(4)

《2021年僱員補償(修訂)條例》由今日起生效。《修訂條例》將僱員在超強颱風(或其他大規模天災)所引致的「極端情況」下上下班途中遭遇意外受傷或死亡,納入《僱員補償條例》(第282章)的保障範圍內,令相關僱員可如八號或以上熱帶氣旋警告訊號或紅色/黑色暴雨警告訊號生效時上下班一樣,在僱員補償方面得到相同的保障。(5)

 

香港雇用条例 日本語注釈版


【原文】


Part IV

Rest Days

(Part IV added 23 of 1970 s. 3. Format changes—E.R. 3 of 2017)

16.

(Repealed 10 of 1980 s. 3)

17.

Grant of rest days

(1)

Subject to the provisions of this Part, every employee who has been employed by the same employer under a continuous contract shall be granted not less than 1 rest day in every period of 7 days.

(Amended 71 of 1976 s. 3)

(2)

Rest days shall be in addition to any statutory holiday, or alternative holiday or substituted holiday, to which an employee is entitled under section 39.

(Replaced 39 of 1973 s. 3)


【原文】


第IV部

休息日

(第IV部由1970年第23號第3條增補。格式變更——2017年第3號編輯修訂紀錄)

16.

(由1980年第10號第3條廢除)

17.

休息日的給予

(1)

除本部條文另有規定外,凡根據連續性合約由同一僱主僱用的僱員,每7天期間須獲給予不少於1個休息日

(由1976年第71號第3條修訂)

(2)

僱員除根據第39條有權享有法定假日、另定假日或代替假日外,尚有權享有休息日。

(由1973年第39號第3條代替)


【日本語】


パートIV


休日 (パートIVは、1970年の第23号の第3条によって増補された。フォーマットの変更——2017年の編集改訂記録第3号)

16. (1980年の第10号第3条を廃止)

17.

休日の付与

(1) このパートの規定に別段の定めがある場合を除き、[連続勤務4週間毎週18時間以上に該当する] 継続契約の下で同じ雇用主に雇用されている従業員には、7日間ごとに1日を下回らない休日が与えられるものとする。 (1976年第71号第3条を修正)

(2) 第39条に基づく法定休日、別途規定した休日または振替休日の権利に加えて、従業員は休息のための法定の休日取得の権利がある。 (1973年第39号第3条により置き換え)


注釈:この雇用条例のいう所の休息日は、日本で言う労働基準法の第35条(休日)の法定休日に該当する。


1、使用者は、労働者に対して、毎週少くとも1回の休日を与えなければならない。 2、前項の規定は、4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。


しかし、香港の雇用条例ではあくまで労基法第35条第2項の様な制約が存在しないだけでなく、さらに、418の雇用条件に限定されている点が決定的に異なっている。つまり、418の条件を満たさない雇用契約では、365日当該休息日が法的に付与されない、又は任意の休日が与えられても、それ自体付与されていないという危険状態を内包することになる。


香港では、418の雇用条件を満たす雇用契約が社会の標準であり、種々の法的保護を受ける必要条件になる。言うまでもなく、この点は雇用条例が労基法ではなくそれ以下の代物という本質を突出させている。同時に、実際の法の運用と遵守の実践において、現地企業の雇用関係における個別の企業体質をも映し出す照魔鏡にもなる。


香港の悪質な管理職は、その人種に関係なく、418を悪用し、その無制限な、責任を負う必要のない働かせ放題の合法化された空間をそのまま剰余労働時間として搾取し、418で働くフルタイムの正職員以上勤務しても、人件費をその本来の418で働く半分或いはそれ以下に抑えることで、利潤を計算上露骨に引き上げるという非人間的な資本の手口を用いる。つまり、タダ働きであればある程、利潤はそのまま従来の418で働く正規雇用ほど削られる事なく、資本家の剰余価値として自身の取り分が拡大する。個別の管理職の目先の点数稼ぎにはなっても、正社員以上搾取するための非正規であり、これは、同一労働同一賃金の原則違反である。これでは、どの職種か、どの業界かなどの表面の相違は一切関係ない。


以上の問題には、直接的に契約違反という民事訴訟の道があるし、実質的には418に該当する労働者であるという主張も成立しうる。この現象が、資本の自由か労働者の側の自由かは明白である。完全に資本の自由、やりたい放題となっている。


自由の抽象は、資本主義社会では人間ではなく、他ならぬ資本の運動の自由を意味している。

従って418以下の契約は、基本選択するべきではなく、その問題性は418以外に宿題やその他非勤務などの名義や形態として強いられる剰余労働時間に潜んでいる。


パワハラ、セクハラや各種の職場の嫌がらせは、直に或いは暗に系統的に管理職、経営陣絡みで体質として行われている場合、それは他ならぬこの様な労働強化や社会福利の自主的な放棄や搾取や、その他資本の利己を強いる為の社会的な虐待、威圧、暴力である。現実では、誰も自主的に劣悪な労働条件や搾取を甘受する労働者はまずいないからである。労働者の思考をミスリードするフィクションとは異なり、資本の暴力は、単に特定の個人の性格や意思の問題ではなく、全体としては具体的な資本の運動と本質的に無関係ではない。

そこで、さらに個別の労働者の家庭の事情や弱みを突いた脅し(企業側が個人情報を収集する目的の一つが個人情報の武器としての利用である)、各種の説教や倫理、道徳、価値論、エセ経済学、伝統、風土、タレント事務所や広告代理店結託による権威を利用した洗脳広報の世論操作工作、法務部や人事部の外部顧問である弁護士、社労士による脅迫もが総動員され、労働者の認識や人間としての正常な価値観を混乱動揺させ、資本の側の暴力を正当化する事が社会的に行われるのである。こうした香港でも日本でも共通の資本の傾向を無抵抗に放置してはいけない。これは、社会的義務である。なぜなら社会的には必ず、他者も同様の被害に遭うからである。