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香港労働法 Hong Kong Labor Issues #57 日本人のための香港労働問題研究:雇用条例 (Employment Ordinance):日本語版 第V部

Updated: Sep 5, 2021


FILE PHOTO: Dog walking ©WiX
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最新の香港の労働情勢


総人口:739万4700人

人口増減:-1.2% (Mid-year 2021) 

総労働人口:384万8400人 

失業率:5.0%

不完全雇用率(就業不足率):2.4% (1)(2)


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注釈:不完全雇用率(就業不足率 / underemployment rate)とは、公表する失業率自体を統計上低く見せる為のカテゴリーというのが香港の官僚の本音である。つまり、コロナ禍で増大した就業状態とは名ばかりの実質失業者、停職者、短時間労働者及び求職者などが、公式の失業者とは別個に統計上包括される概念である。しかも、日本語の求人倍率などとは全く根本的に違う経済概念である。


これには、集計前7日間の非自発的な労働時間が35時間未満で、集計前30日間に追加の仕事を求めた被雇用者、または追加の仕事を求めなくても集計前7日間に追加の仕事をすることができた被雇用者が含まれる。 この定義によると、集計前の7日間に、仕事量が足りないために無給休暇を取った被雇用者も、労働時間が35時間未満、あるいは7日間にすべての休暇を取った場合は、不完全雇用者と定義される。(3)

政策上の変化或いは特色:


新冠肺炎疫情下,多國的疫情不穩,旅遊業及航空業成為失業重災區。香港空運貨站職工會主席葉以勒指出,客運方面深受打擊,不少人被裁或放無薪假,但貨運方面卻出現「有工冇人做」的怪現象。葉相信機場偏遠及聘用條件低成為「怪現象」的成因。
工聯會職訓就業委副主任梁子穎表示,「有工冇人做 ,有人冇工做」情況正正反映就業錯配問題,並指去年起至今在「防疫抗疫基金」預留共132 億元推行兩輪創造職位計劃,於公營及私營機構創造約60,000個有時限職位。截至本年七月,只有29,000個職位成功配對,有近一半職位未能成功配對。梁認為成功配對數字偏低顯示計劃細節存在問題。
工聯會建議政府應「以工代賑」,參考沙士時期所開創的職位,額外開設15,000個新職位,包括護理、小型維修,以及清潔與滅蟲等職位予失業人士,並加快兩輪合共60,000 萬個臨時職位的落實進度。團體又要求政府提高再培訓津貼至9,000元,並且取消免學費、領津培訓的「特別‧愛增值」計劃的課程的報讀限額,解失業人士燃眉之急。(4)

日本語翻訳:


新型肺炎の流行により、多くの国で観光産業や航空産業が大きな被害を受けている。 香港エアカーゴターミナル労働組合のイップ・イーロク会長は、旅客側では多くの人が解雇されたり、無給休暇になったりと大打撃を受けているのに対し、貨物側では「仕事があるのに、求職者がいない」という奇妙な現象が起きているという。 イップ氏は、空港の遠さと雇用条件の低さが「奇妙な現象」の原因だと考えている。


香港労働組合総連合会(FTU)職業訓練・雇用委員会副主任のレオン・チーウィン氏は、「仕事があるのに人が雇われていない」という状況は、雇用のミスマッチを反映しているとした上で、昨年来、疾病予防管理基金の下で2回にわたる雇用創出プロジェクトに総額132億香港ドルが計上され、官民で約6万人の期限付き雇用が創出されたと述べた。 今年7月時点でマッチングに成功したのは2万9,000件にとどまり、半数近くが未マッチングとなっている。 レオン氏は、成功したマッチングの数が少ないのは、プログラムの詳細に問題があったことを示していると述べた。


FTUは、SARS期間中に創出された雇用に鑑み、政府は失業者のための看護、小規模なメンテナンス、清掃、害虫駆除など1万5,000件の新規雇用を創出し、合計6,000万件の2回にわたる臨時雇用の実施を早めるべきだと提案した。 また、失業者の切迫したニーズに対応するため、再教育手当を9,000ドルに引き上げ、特別訓練・強化プログラムによる授業料無料の補助付き訓練コースの登録制限を撤廃するよう政府に要請した。


 

ここでは、中国大陸には言及しないが、最近の香港の労働環境の特異性を示す概括性を有した重要なニュースが以上に引用した東方日報の8月30日のニュースである。現在の香港の労働環境及び労働官僚、労働組織(労働貴族)の典型的な単線、短線(目先)思考、そして政策に関する思想がここに凝縮されているのに気付かされる。


まず、香港の労働官僚の側はとにかく目先の失業率を統計上下げるだけの為に、短期の肉体労働、ブルーカラーの臨時職を大量募集しているが、求人者が半数にも満たないのはまずは、労働条件が何よりも劣悪だからである。就業率と求人倍率とを人口統計上水増しするために、明らかに労働者の側に安定した、長期的に購買力(生活能力)も堅実に維持できる様な、まともな職の創出とマッチングを試みるという考えはなく、彼らがその初めから劣悪な肉体労働の臨時職を大量に用意するという点に、既に明確なネオリベの冷酷な価値観と発想が看取される。そもそも労働者の生活の安定、最低限の文化的な生活云々の万国共通の政策基本理念や想定がない香港の労働官僚の非人間性が露骨に顕在化している。


さらにここで言う、臨時職は日本の様な役所の嘱託職の様な直接雇用よりも劣悪で、実際は外部委託業者の下での請負労働である。これが、直接雇用であるかのような体裁下で、説明もなしに香港の現地労働者達、主として非外国人労働者達に対して提示されている。大量雇用とは、ネオリベ社会では大量離職を前提にした時限性のものであり、場渡的で、統計上の操作の一環にすぎない。そして、大量雇用であるからには、大量であればあるほど劣悪な労働条件と言う条件付きでもあるのがネオリベの特徴である。そもそも、その最初から最後まで、労働者側の生活状態の抜本的な改善という長期的な視野における措置ではない。


これでは、コロナ禍ですら労働者達が半数以上の求人に応募すらしないのは至極当然である。むしろ、労働条件改善の社会的な圧力を構成するには労働者の側からの社会的なボイコットが必要である。労働者を労働市場において求職へ駆り立てる内的な衝動はそれ自体自然の産物ではなく、生存権を脅かす資本主義の暴力的な心理作用であり、労働力をとにかくどこかの資本家へ売ることを強制する外的機制である。これが、労働者の側にうつ病や精神異常をきたす主要な社会的な要因である。


香港の労働官僚(どこの資本主義社会も同様だが)は、この労働力を売る労働者の側の逼迫した労働市場参加への衝動を創出するために社会福祉を人工的に著しく低い水準に置く傾向がある。しかも平然とその魂胆を公言する。あえて何も手を打たないのは、自動的にはこうした労働者の側の逼迫状況を作り、資本の側でとにかく労働力を買い叩く状況をもたらすネオリベの魂胆である。この点で、労働官僚が誰に奉仕しているのかは明確である。

その証拠には、香港の官僚は大規模公共事業と公営企業を戦略的に特定業界において設置して、安定した職を多く創出しようとはしない臨時職の請負労働者を委託業者の下で大量に創出して場渡的に統計上失業率を下げることしか考えていない。つまり、自分たちの当年の業務成績しか考えていないから、労働者の側の生活を改善する抜本策というそもそも本来の政策の観点が驚愕するべきほどに欠落している。一体どう言う類の公務員、政府なのだろうか?


では、労働貴族の方はどうかと言うと、再教育手当や訓練コースは彼らが私営で運営する補習機関への補助金の流入のことであり、そもそも彼らの補習・訓練機関なるものが企業からは要求されない類の有用性のない証書や資格の取得期間に、受講者側が雀の涙程に享受する金額に過ぎない。これ自体も場渡的で労働官僚と同様の目先だけの短線思考である。


全体としては、むしろこうした労働官僚や労働貴族の欺瞞と利己主義を見据えて、敢えて劣悪な労働条件に応募せず、社会的にボイコットする事で労働条件上昇の社会的圧力を醸成したり(個別の泣き寝入りは敗北であり、より社会的なレベルでの労働条件全体を悪化させる)、果ては移民するという目下の二大傾向に香港の労働者階級の悲哀と、知性、自覚と度量が如実に顕在化されている。これらの沈黙の抵抗は、当面肯定的な積極的現象と捉えるのが労働者側である。

香港では、新労働運動という新概念が今年3月に提唱されたが、以下は重要な補充である。


労働者階級を餌食にする基本的な単位は、何よりも資本家(地主や暴力団も含む)、労働官僚、労働貴族、そして最も労働組合、労働組織に疎かにされがちな相手である金融機関である。

留意するべきは、これらは全て資本家。官僚に関しては、香港において2002年から香港政治委任制度(a ministerial system)を導入し、委任された民選ではない資本家あるいはその利益代表が公務員の団体を率いるというネオリベ制度(政府国家の株式会社化、公的サービスの私有化の手段)が既に存在している。


公的サービス、公営企業の効率性云々の詭弁は、それ自体生存権を確保するために、社会的インフラを整備し、資本家が顧みない住民の生活水準確保、維持と向上を主眼に置くものであるという本質的差異を意図的に無視している。であるからして、私的利潤の追求という私営企業として公的サービスや公営企業を計るのは根本的に筋違いで、公的サービスを私有化して競争のない独占体を一気に形成しようという私利私欲の妄言に過ぎない。しかも、そうした資本家が公的サービスを指導する結果、香港の生活水準は貧困率とともに悪化の一途を辿っている。コロナ禍どころか虫害、鼠害(そがい)すらろくに解決できない有様である。彼らの目的が、問題の解決ではなく、公的資金の安定した私物化に過ぎない事は数値が全て物語り、明白である。


従って、直接/間接の形態で官僚資本、官僚資本家、官僚資本主義と言うのも存在しており、公務員、官僚には資本家はなれないし、兼任はなおさらできないという観念は現実を知らない時代遅れの認識か、事実を隠蔽する体制の走狗番犬の詭弁である。それから、労働貴族は、議員であり自身の事務所(会社)や小規模な不動産会社を経営していたり、彼ら自身はもちろん労働者ではなく、プチブル層である。


最重要なのは、香港の寡占/独占体は不動産業界としての側面がいたずらに強調されるが実態は金融業である。なぜなら単に土木工事自体が目的ではなく、不動産や株の投機と市場の機能との甚だしい乖離が主点だからである。そして、彼ら大財閥自体も自身の金融機関を有している。

さて、このコロナ禍で弱体、困窮化した労働者階級を特別に狙い撃ちにするのが金融業者である。本論稿ではまだ立ち入らないが、原則をまず述べると、個人情報不正取得・悪用、求人詐欺、高利貸し、金融犯罪、ネット犯罪や暴力団、金融機関、不動産・管理業者などの横断的な資本のネットワークが多くの香港の労働者とその家庭を系統的に餌食にしている。労働組合は今年提唱し出した新労働運動新工運)で主張する土地や居住問題だけでなく、こうした増大する金融問題にも従来の労働問題の範疇を拡大せざるを得ない限界の局面になっている(彼らはそこまですぐ拡大しないだろうが)。ここで重要な価値観の転換は、雇用関係において、被雇用者が雇用主の違法行為を追求するように、金融犯罪の犠牲者の側も相手、債権者の違法行為を社会的に追求するという断固たる態度が必須である。労働問題の研究、従来の労働組合組織や専門家なる者も、資本の多領域、分野横断的な搾取と暴力の社会的な広域ネットワークに抗して、従来の狭い単なる労働法制の枠組みと著しく限定された事象分野、研究から実践においても多領域に発展しなければならない社会的な傾向が生じている。これは、長期的に今後の労働問題研究の方向性になるし、ならなければならない。ここで言う多領域とは、実践的な多くの行政、司法各部門の管轄をも跨いだ問題意識である。なぜなら、資本の側は異なる管轄間の間隙を狙い、暗躍するからである。
労働者の側が社会的に弱体化すればするほど、ますます反比例して強固な意思と、嵐の船の中でも乗組員が慌てふためくのに平然と餌を食べる豚の様な冷静さ、通徹した知識(何より敵の手口と社会的解決手段・条件を知る)と断固たる行動手口や手段は労働者を餌食にする敵が実は一番熟知しているが、餌食となる被害者に自覚され行動されると相手は困る、つまり行動とは抵抗である)が必須になる。であるから、困難に比例して神経衰弱になったり、泣き寝入りしても1文の利益にもならない。敵の手口は被害者側の抵抗力や意思を削ぐことに注がれる

もはや黙す能わず


強大な社会悪とは容赦無く無情に戦わなくてはならない。相手の違法行為が常に社会的弱者の、被害者の抵抗、拒否の理由になる。いくら広告で糊塗しても、他人を搾取する者が善や英雄であるということは永久にない。
とにかく、日本のであれ、香港のであれ、従来の労働組合は取り扱う範疇が資本の側に対して極端に狭過ぎ今や他領域にまたがる労働者の面する社会問題・事件に十分な対応ができない旧態依然とした単一の閉鎖的な形態であるのを露呈している。既に、この停滞状況で多くの年月が過ぎているのだ。例えば、最も有力な商工会議所を見てもすぐに分かる様に、相手はトラストやコンツェルンの集合体でも、それに対する労働組合の側が何十年、何世紀も硬直した、特定企業内や特定業種だけの寄り合いという変化を忘れた組織形態では、明らかに釣り合わないのは一目瞭然である。これは、肯定的には、従来の労働組織と運動が未来においても発展進化する必要と余地がある事も意味している。そして、その必要性はここにおいて既に人間の意識に上っている。

本稿の執筆時点では、何ら制度面での変化は香港の労働法制の範疇において確認されえない。


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Latest amendments to Labour Laws

 

香港雇用条例 日本語翻訳注釈版


【原文】


Part V Payment of Wages (Format changes—E.R. 3 of 2017)


22. Wage period The wage period in respect of which wages are payable under a contract of employment shall, until the contrary is proved, be deemed to be 1 month.


【原文】


第V部 工資的支付 (格式變更——2017年第3號編輯修訂紀錄)


22. 工資期 根據僱傭合約須支付工資的工資期須當作為1個月,直至相反證明成立為止。


【日本語】


パートV

賃金の支払い

(フォーマット変更-2017年編集改訂記録No.3)


22. 賃金支払いの期間

雇用契約に基づいて賃金が支払われる賃金期間は、その反対が証明されるまで1ヶ月とみなされる。


注釈:他にそうでないという証明がなされない限り、労働者の賃金支払いの基本的な期間は1ヶ月ごとの支払いである。これは、日本も共通。


【原文】