香港労働 Hong Kong Labor Issues #14 日本人のための香港労働問題研究:年休は契約解除時の通知期間に含められるか?
Updated: Sep 25
年間の法定の有給休暇や産休は通知期間に含めない
香港では、労使双方に労働契約解除の際の通知期間が設けられている。日本では、労働者の側にも労基法で正社員(permanent regular worker)であれば、二週間前に通知すれば事足りるので、日本でも通知期間はあるというのが共通点である。
香港と日本の労働環境のこの点の決定的相違は、労働者側に雇用契約解除時の予告手当を資本家側に支払う義務が生じる仕組みである。
雇用条例第6(2A)条では、法定の年休(年間の法定数の有給休暇であり、annual leaveと呼ばれるもの)は雇用契約を終了する際に必要な通知期間に含めてはならないというのが、これは労働者の側ではなく、この主旨は資本家の側に対する制約である。(註1)
雇用条例第6(2A)条:
(2A)
Without prejudice to section 41D, annual leave to which an employee is entitled under section 41AA shall not be included under subsection (2) in the length of notice required to terminate a contract of employment.
(Added 48 of 1984 s. 4. Amended 53 of 1990 s. 5)
Cited from elegislation.gov.hk
もしこの条項がなくては、労働者は、解雇通知期間分の金銭保証を未消化の法定の有給とは別に取得することが阻まれ、資本家側は本来の年休とは別に支払う義務のある予告当ての支払いに未消化分の有給を当てて相殺でき、まるまる得(賃金泥棒)をすることになる。これを防止するための趣旨の条項である。
労働者は自ら雇用関係を解除する場合は年休を通知期間に含められる
判例法理:Kao, Lee & Yip v Lau Wing and Tsui Wai Yu (FACV 7/2008)では、最高裁は上記のごとく、資本家を拘束し、労働者は自身の裁量で通知期間に年休を含めて計算することが可能と確定した。これは、労働者が通知の代替金(予告手当)を払う負担を減少させることができるということである。
つまり、部分の通知期間に部分の予告手当を加える形で資本家の同意を得ることなく、労働者はこのような処理が可能である。そうして、労働者による辞職の通知期間に含めた年休の賃金は労働者に支払わなくてはならない。(註2)
この論考にしても、あくまで現行のブルジョア法制、労使協調主義(これを大陸では和諧というが、ブルジョア労使調停主義そのものである)という労働者には最低基準しか保証され得ない枠内での労働問題の解決方法をまず模索しているが、その克服をも模索している点は留意を請う点である。労基法は、最低基準にすぎず、十分でもなければ、最大限でもない。それは、ブルジョア調停主義の枠組みでは、最低限保証の範囲しか実は認められていないという現実の階級的差別を認識するべきで、もちろん最大限保証を得るのは資本家である。労働者はこの水準において甘んじる道理は微塵も無い。ここには、社会主義はなく、民主主義の最低限の切れ端のような権益が労働者にあるだけである。
また、労働者側が通知の予告手当を支払わなくても刑事罰はないのが、資本家側と異なる。この上記の判例法理も、労働者の福利に供する重要な勝利であり、例えば、労働者が辞職する場合に、通知期間があらかじめ資本家との契約で三ヶ月と合意していた場合、彼が一ヶ月勤務し、残り二ヶ月を蓄積していた年休で代替した場合、彼は三ヶ月分の給与をこの契約終了の過程で得ることができる。
この場合、資本家を考慮する必要はなく、労働者は即時解約をしたい場合はこのような年休で通知期間の予告手当に代えて支払いを相殺することもできる。
Notes
(1) See the Employment Ordinance.
(2) See the court case.
香港労働問題研究論考30章
(以下リンクより各論考へ)
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香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項
1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。
2、もし、雇用主に解雇された場合、いかなる文書にもサインしないこと。また、何かにサインする前に、自身に不利ではないかまず内容をよく見ること。不明な点は、質問しはっきりさせ、解答が不明瞭ならばサインは拒否するべきである。つまり、理解できないものは拒否すること。下劣な香港マネージメントは手口としてあからさまな詐欺を働く場合もあり、それはサイン無効として追究する道を開く。ここで、重要なのは、サインした全ての公式、非公式の文書はコピーを要求する権利があり、コピーを渡さないならばサインしないことである。このような卑猥な資本主義の犬に屈するくらいならばサインや合意を破棄するべきである。その方が労働者の精神的利害及び社会的契約上の権利の実現と言える。日本の求人詐欺の手口は基本的に香港でも存在している。多くの多国籍企業のアジア太平洋地区の本部は香港であり、人事部が実は香港という大企業も少なくない。手口自体の共通性はここから来ている。
3、紙媒体か電子媒体かを問わず、全ての企業関連の文書を保存すること。これは、雇用契約書から、就業証明、給与支払報告書、税報告書、解雇通知書などを含み、その後労働者の受けるべき権益を要求する基礎になる。
References
1.《勞資審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!zh-Hant-HK
2.香港法例第57章《僱傭條例》僱傭保障Q&A http://www.labour.gov.hk/tc/faq/cap57k_whole.htm
3.勞資審裁處表格 http://www.judiciary.hk/tc/crt_services/forms/labour.htm
4.勞資審裁處條例 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!en
5.第338章 《小額錢債審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap338
6.Cap. 347 LIMITATION ORDINANCE https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap347!en?INDEX_CS=N
7.Cap. 149 General Holidays Ordinance https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap149
8.判例集 https://www.elegislation.gov.hk
雇用条例の全文は、以下の二つのリンクが有用である。日本語は、完訳済みである。
English: https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap57
Chinese: https://www.labour.gov.hk/tc/public/ConciseGuide.htm
Statements
This series of articles about HK labor issues is written by Japanese due to supporting Japanese workers in Hong Kong where differs from Japanese working environment. Moreover, there is no labor consultant for Japanese workers in Hong Kong while facing blood sucking Japanese recruit agents and overseas Japanese 'Black Kigyo' (Evil Companies).
Any part of this report may be disseminated without permission, provided attribution to Ryota Nakanishi as author and a link to www.ryotanakanishi.com is provided.
注意:香港には、日本人のための労働相談所はない。また、総じて労働問題対策の出版物は皆無に等しい。日本語だけでは、極めて危険な状態である。香港でも会社の人事部、就職エージェントや企業の人事コンサルタントなどはすべて行為において資本家側であり、自分たちも労働者であるのに、むしろ労働者と敵対するので、要注意だ。会社外の労組へ相談するべきだ。香港では日本人で労働問題を論じている者がいないと言うことはできない。私は永久に労働者階級のために階級闘争を戦う。階級闘争とは、労働者の階級的利害のための一切の社会的な闘いである。
