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香港労働 Hong Kong Labor Issues #14 日本人のための香港労働問題研究:年休は契約解除時の通知期間に含められるか?

Updated: Aug 6, 2021

#香港労働法 #日本人 #HongKong #Labor #Issues

年間の法定の有給休暇や産休は通知期間に含めない

香港では、労使双方に労働契約解除の際の通知期間が設けられている。日本では、労働者の側にも労基法で正社員(permanent regular worker)であれば、二週間前に通知すれば事足りるので、日本でも通知期間はあるというのが共通点である。

香港と日本の労働環境のこの点の決定的相違は、労働者側に雇用契約解除時の予告手当を資本家側に支払う義務が生じる仕組みである。

雇用条例第6(2A)条では、法定の年休(年間の法定数の有給休暇であり、annual leaveと呼ばれるもの)は雇用契約を終了する際に必要な通知期間に含めてはならないというのが、これは労働者の側ではなく、この主旨は資本家の側に対する制約である。(註1)


雇用条例第6(2A)条:

(2A)

Without prejudice to section 41D, annual leave to which an employee is entitled under section 41AA shall not be included under subsection (2) in the length of notice required to terminate a contract of employment.

(Added 48 of 1984 s. 4. Amended 53 of 1990 s. 5)

Cited from elegislation.gov.hk


もしこの条項がなくては、労働者は、解雇通知期間分の金銭保証を未消化の法定の有給とは別に取得することが阻まれ、資本家側は本来の年休とは別に支払う義務のある予告当ての支払いに未消化分の有給を当てて相殺でき、まるまる得(賃金泥棒)をすることになる。これを防止するための趣旨の条項である。

労働者は自ら雇用関係を解除する場合は年休を通知期間に含められる

判例法理:Kao, Lee & Yip v Lau Wing and Tsui Wai Yu (FACV 7/2008)では、最高裁は上記のごとく、資本家を拘束し、労働者は自身の裁量で通知期間に年休を含めて計算することが可能と確定した。これは、労働者が通知の代替金(予告手当)を払う負担を減少させることができるということである。


つまり、部分の通知期間に部分の予告手当を加える形で資本家の同意を得ることなく、労働者はこのような処理が可能である。そうして、労働者による辞職の通知期間に含めた年休の賃金は労働者に支払わなくてはならない。(註2)


この論考にしても、あくまで現行のブルジョア法制、労使協調主義(これを大陸では和諧というが、ブルジョア労使調停主義そのものである)という労働者には最低基準しか保証され得ない枠内での労働問題の解決方法をまず模索しているが、その克服をも模索している点は留意を請う点である。労基法は、最低基準にすぎず、十分でもなければ、最大限でもない。それは、ブルジョア調停主義の枠組みでは、最低限保証の範囲しか実は認められていないという現実の階級的差別を認識するべきで、もちろん最大限保証を得るのは資本家である。労働者はこの水準において甘んじる道理は微塵も無い。ここには、社会主義はなく、民主主義の最低限の切れ端のような権益が労働者にあるだけである。


また、労働者側が通知の予告手当を支払わなくても刑事罰はないのが、資本家側と異なる。この上記の判例法理も、労働者の福利に供する重要な勝利であり、例えば、労働者が辞職する場合に、通知期間があらかじめ資本家との契約で三ヶ月と合意していた場合、彼が一ヶ月勤務し、残り二ヶ月を蓄積していた年休で代替した場合、彼は三ヶ月分の給与をこの契約終了の過程で得ることができる。


この場合、資本家を考慮する必要はなく、労働者は即時解約をしたい場合はこのような年休で通知期間の予告手当に代えて支払いを相殺することもできる。


Notes


(1) See the Employment Ordinance.

(2) See the court case.

香港労働問題研究論考30章

(以下リンクより各論考へ)

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