香港労働 Hong Kong Labor Issues #19 日本人のための香港労働問題研究:司法審査、労働審判及び本裁判の概論
Updated: Aug 6, 2021
#香港労働法 #日本人 #HongKong #Labor #Issues
労働審判の司法審査(覆核)要求
司法審査は、香港では新聞やテレビでも日本以上に目にすることが多い法律用語である。法的行為の頻度を反映している。台湾よりもアメリカのニュースよりも頻度が圧倒的に高く、政治手段としてだけでなく、市民の側の行政不服審査の常套手段として浸透している。
香港の労働審判は、労使審裁所条例(Cap. 25 Labour Tribunal Ordinance) に規定される。
もし、労働審判で審査官の出した判断命令に誤りがあれば、14日以内に司法審査を提出できる。そして、シート11というフォーマットで双方に出廷を通知する。
司法審査と上訴の差異:この二つは別物!
1、司法審査では新しい証拠を提出できるが、上訴では基本できない。
2、大多数のケースでは、元々の審査官が処理をする。
3、上訴では、高等裁判所の大法官が処理をする。
4、一旦、上訴すれば司法審査を行うことはできない。
要点:先に司法審査を処理してから、結果を待ち、そしてその確定した結果に基づき上訴するのが正しい。焦らず、衝動的になるのではなく、ひとつひとつ、細部、段階を経て固めていくことがより多くの抵抗手段を確保する。そして、その先行した段階が次の段階での材料になる。焦りや衝動は、団結時の行動の統一性の欠如を露呈し、それ自体が自身への打撃になる。つまり、違法行為や不当行為はその一つ一つを摘発していく過程自体とその具体的な起きた諸現象事態が、次のより高次の抗議段階での材料になる。これは弁証法的である。違法性に関しては、低次の先行の処理段階で修正されていても、行政指導を含めた先の事実及びその過程自体は変わらないので、高次の段階での抗議はより豊富な内容を持つ。
司法審査であれ、上訴であれ、もう一方の側が既に判決の出た権利を行使するのを妨げない。つまり、司法審査をするのであれ、上訴するのであれ、既に判決で支払いが決まっている額はすぐに相手へ払わなくてはならない。司法審査と上訴は、このような最初の判決で出た権利を行使する上での遅延の理由にはするべきではない。
上訴
労働問題の上訴は、再審ではない。また、上訴は法律の論点の過ちに対してのみ提出できる。
労資審裁所条例第35(2)条では、上訴は新しい証拠を受け付けない。さらに、事実問題に関して労資審裁所よりなされた裁定を覆したり、変更することができない。
35.
Powers of Court of First Instance on appeal
(1)
On an appeal for which it has granted leave under section 32, the Court of First Instance may—
(a)
allow the appeal;
(b)
dismiss the appeal; or
(c)
remit the matter to the tribunal with such directions as it thinks fit, which may include a direction to the tribunal for a new hearing.
(2)
On an appeal for which it has granted leave under section 32, the Court of First Instance may—
(a)
draw any inference of fact; and
(b)
make such order as to costs and expenses as it thinks fit,
but may not—
(i)
reverse or vary any determination made by the tribunal on questions of fact; or
(ii)
receive further evidence.
(3)
Subject to section 35A, the decision of the Court of First Instance shall be final.
(Replaced 79 of 1981 s. 9)
(Replaced 25 of 1976 s. 5. Amended 79 of 1981 s. 9; 49 of 1988 s. 3; 25 of 1998 s. 2)
構成要素:事実部分と法律部分
法的なケースは、大きく二つの部分から構成されている。一つは、事実部分(question of fact)と法律の論点部分(question of law)である。事実部分とは、例えば、雇用主(資本家とは限らない)が労働者を解雇したとして、労働者が辞職したと言い張る場合である。
これは、事実の係争であり、事実が何であるかを探すのは、元の労資審裁所の義務であり権利である。
判例法理:馮皓嵐 対 威達製品有限公司 君得國際有限公司(HCLA6/2011)に於いて、法律の論点とは何かを確定した。上訴は、先の事実の部分の裁定を覆さないとしても、その審査過程の誤りを審査することができる。
1、事実の裁定の過程で、相関した要素を考慮していない。
2、無関係の要素を考慮した。
3、裁定が常軌を逸している。逸脱がある。
4、非理性的。
5、裁定が証拠によるものではない。
6、一人の理性的な審査官も同一の結論に至らない。
7、当該証拠に対して、唯一合理的な観点は上訴人の観点である。
ただし、上訴では異なる観点や意見があるからと先の判決を覆せない。
法律の論点部分の誤り
1、引用した法令、法例、法律原則の間違い。
2、法律や合約条文の解釈の誤り。
3、適切な証拠の処理がない。例えば、不一致な証拠。
4、証拠への考慮の比率が不適切。
労資審裁所の過ちは、上訴の根拠となる。
1、調査を徹底する責任の欠如。
2、当該案件の事情を裁定していない。
3、偏見がある。
4、審査の順序を正確に行わない。
調査を徹底する責任の欠如
労資審裁所条例第20(3)条では、労資審裁所と他の裁判所(区域の裁判所や高等裁判所)とは違い、小額銭債審裁所と同様に、調査の責任を有している。これは、双方が弁護人を立てられるか否かで、その裁判官に調査権があるか否かが規定されている。
20.
Hearing to be informal
(1)
The hearing of a claim shall be conducted in an informal manner.
(2)
The presiding officer may subpoena witnesses, order the production of any document, record, book of account or other exhibit and put to a party or witness such questions as he may think fit.
(3)
The presiding officer shall investigate any matter which he may consider relevant to the claim, whether or not it has been raised by a party.
判例法理:Chan Suk Bing Angir v Habour Phoenix Limited and another (HCLA 46/1991)では、労資審裁所では労働者も資本家側も弁護士を代理にすることができないため、審査官の調査の責任がある。
もし労資審裁所審査官が、調査の責務を果たしていないとしたら、それを理由にして上訴しても、もう一度元の労資審裁所裁判官に戻して事実に関し、再調査をさせるが、あくまで再審ではない。
香港労働問題研究論考30章
(以下リンクより各論考へ)
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