香港労働 Hong Kong Labor Issues #2 日本人のための香港労働問題研究:労働者をフリーランスとして雇用する手口に注意!
Updated: Aug 6, 2021
#香港労働法#日本人#HongKong#Labor #Issues
雇用形態は個人事業主か労働者か?
これは、実にネオリベ的に労働法制を葬る違法雇用形態の典型的な現象である。この現象の蔓延は、その社会の労働法制の死を意味する。これまでの労働運動の諸成果も葬る状態である。看過してはならないし、甘受するのも反社会的である。まして、映像業界のように己の作品の為に他人にこれを強いるのは言語道断の経済犯罪である。これは、完全なブラック企業の特徴である。このような違法などす黒い雇用形態の上に良い健全なビジネスなどは成立しえない。これに憤怒しない労働者の側もおかしい。これをなくす過程の努力はこのような手口そのものによっては到達しえない。それはますますこの手口に依存する構図である。社会的にこのような手口を根絶してこそ初めて健全なビジネスや労働も行えるのである。労働者は、特定産業の既存の企業でこのような違法行為をしていない企業をまず選び出さなくてはならない。もちろん、正社員偽装があり、フルタイムだけとあり、実は指摘されて臨時職であったりする上に、さらにこの個人事業主偽装の雇用形態ということが香港でも珍しくない。
労務管理/人事コンサルタント達は、労働者階級の敵である。労働者達の相談相手ではない。雇用主は、日本も香港も同様に、脱法の為に労働者と個人事業主の契約を結ぶ。個人事業主とは、フリーランスと呼ばれるものである。正確には、法人名で理解される独立して事業を営む経営者でなくては筋が通らず、労働者や雇用なるものの概念は妥当しない。労働は、本来生き生きとした各個人の個性能力の最大限の社会的な発露実現であり、生き甲斐(社会的存在)をなすものである。それは、このようなネオリベ社会では到底成立しない。この違法行為もネオリベ社会をブラックたらしめる所の要素の一つに過ぎない。
しかし、そのような形式上のフリーランス契約で労働者達を個人事業主と呼び、その実質的な労働の形態はとても個人事業主と言えるものではない。
これこそが、日本と香港に共通した問題である。これは、日本では労基署が労働者性を残業代未払いなどで検証することができるが、香港では法廷しかこれを判別する機関はない。
個人事業主と労働者の区別の法的指標
そこで、判例法理で既に定立している個人事業主と労働者の区別の法的に有効な指標が幾つかある。先に以下に概括する。
1、自ら経営業務をしているか?
2、自ら経営合約のもう一方の側の業務をしているか?
3、自ら何らかの資金を業務に投下し、収入や利潤を得ているか?
4、自ら財政上のリスクを請け負っているのか?つまり、契約において、規準に見合わない仕事のコストを負うのか?
5、自らの裁量で業務自体、業務方法、時間、場所、自ら業務を行うか否かのコントロールができる立場か?
6、自らの業務時間をコントロールして決め、業務を履行する立場か?
7、自ら業務、生産に必要な手段を所有しているか?
8、自ら雇用契約を他の労働者を雇うために取り決め、業務を遂行することができるか?
つまり、個人事業主とは資本家、経営者であり、経営者か否かを問うのである。もし、労働者達が香港で労働者性が認定されると、雇用条例や関連した労働諸条例によって保障される。
日本の個人事業主偽装問題
日本でも労働者を個人事業主、つまり自営業、フリーランスとして契約し労働基準法を脱法できると勘違いしている悪質人事部が多い。殊に所得が最下位の映像業界はこのような労働基準法違反の上にその搾取が成立している。そこでは、労働者が勤務先の管理職の指揮命令下にあり、労務遂行の手段を所有していないこと、給与水準が一般のいわゆる本物の事業主の水準から著しく低く、労働者の水準であることがポイントになり、労働者性の証明が実質労働者としての労働基準法違反の訴えをする際に必要不可欠になる。
映像業界では、社長もしくは裁量労働時間制の正社員の製作以外は、基本的に派遣労働者、パート(学生アルバイト)、そしてフリーランスとして雇用される労働者たちからなるが、その制作体制から製作の指揮管理に必然的になるのでこの違法行為には致命的な弱点になる。現行の映像業界がこのような違法な労務管理に立脚している限り、それをまず個人の範囲で違法を摘発し、かつその業界をボイコットするのが個人の健康と尊厳を守るためにも正しい。どれだけ多くの優秀な人材が搾取され、健康を害し、家族関係に悪影響を及ぼしたのかは想像以上である。芸術自体にしても、人間が中心的価値であることを忘れた者たちが自己中にもこの劣悪な労働環境を固定化し、他の業界へも悪影響を及ぼしている。労働時間の記録、労働内容の記録及び組織、指揮管理者の記録、メールのやり取り、スクリーンショット、そして録音は、すべて行政機関での法的手段の行使時に日々の準備や証拠の意味でも不可欠になり、裁判時に合法的に整理して提出できる。
労基署の監督官も参照する労働者性の証明の方法は、労働基準法研究会の「労働者性」の判断基準についてが最良のアドバイスになる。そして、この基本的な論証の要点はそのまま香港でも同様に適用できる。ここに香港の判例法理で追加された強調点は以下である。
判例法理1 Lee Ting Sang v Chung Chi Keung [1990] 2 AC 374
ポイント:労働者性の基準は、当該被雇用者が提供するサービス行為が商売を営む性質のものであるか否か、彼/彼女がそれによって営利上の損失を被る立場か否か、つまり彼/彼女が商売を営んでいる独立法人そのものか否かにある。現地では自僱人士、判頭、獨立承判商、營商とも言われるもののみ該当する。基本contractorは、請負会社が正しい法的翻訳であり、通常会社名で理解される主体であり、労働者個人ではない。労働者にフリーランス契約させればいいというのは、違法行為そのものであり、法律概念の甚だしい欠如、労働及び労働者の概念を歪曲する暴挙である。
その他の基準及び参考要素:労働者を雇用しているか、労働手段を提供しているか、税務及び強制積立金MPFのアレンジをしているか、双方の意向などが法廷で考慮される。
最重要の判断基準は、サービスの提供者が営利を営む独立法人としての主体そのものかになる。契約や合意が形式的判断基準ではない。
判例法理2 梁金華 v 馮玉清 創匯運輸公司 HCLA 43/2006
ポイント:雇用関係が客観的に、実質的に存在している時、資本家が労働者にどのような協議で合意、サインを行ったり、どのような名義、体裁をもってしてもその実質を変えることはできない。労働者性がある限り、いかなる雇用形態の偽装も無効になり、書面での合意、捺印、署名も全て無効になる。これにより、フリーランス労働なる違法な産物が無効化された。このネオリベラリズムの現象は、その存在自体が労基法を葬るものであり、唾棄すべきものである。労働者階級の18世紀以降の世界の労働運動の総体的成果への否定である。これを利己主義的に個人的視野で肯定するのは犯罪的である。決して民主主義の進歩などではない。ネオリベは民主的成果の後退、退行現象である。
注意点:労使双方の法律上の関係は、双方が決定する事項ではなく、法廷があくまで事実に基づき判断する形になる。しかし双方の考え方、協議合意はあくまで参考でしかないが、参考にはなるので注意が要る。
問題点:双方の関係が曖昧模糊としている場合は、双方の協議合意内容が優先されるので極めて労働者は注意が要る。資本主義社会では、労働者は労使調停主義的な制度枠で最低限度ライン辺りの保護しか受けない。
この判例法理では、貨物トラックの運転手は、車のリース契約、フリーランス契約をし、営業ライセンスも取得したが、労働者として法廷に認定された。
判例法理3 Poon Chau Nam v Yim Siu Cheung (2007) 10 HKCFAR 156
ポイント:眼部を損傷し、45%の職務能力を喪失したcasual worker 日雇い労働者(散工と言われる非正規雇用:季節/期間労働者も含む)をフリーランスであるとして資本家側が争ったケースでは、最高裁で労働者側が勝訴した。幾つかの法的解釈がなされたが、中でも重要なのは、
1)日雇い労働者は毎日雇用主を変更でき、雇用関係は当該日に発生したと認定される。しかし、双方は全ての日において労働、仕事を提供する責任がない。この点から、単に労使双方がサービスや労働を提供する責任があるや否か自体が争点になるのではなく、この点が雇用関係の有無を決めない。労働力の提供を単純に労使関係の有無と直ちに見なしていない。
2)例えば、その他の被雇用者の福利、有給休暇、閉業に伴う金銭補償(手切れ金、遺散費)などにのみ影響を与えるような責任があるか。このような労務管理上の相互責任があれば、全体的な雇用契約が成立する。418(連続4週間、毎週18時間以上でないと、雇傭条例の福利の提供除外になる)の条件に部分の日時がそれに該当しなくても、雇用契約は中断なく成立していると認定される。
注意点:散工とも言われるパートタイム、temporary、案件ごと雇用されるだけの件工、日雇い、季節労働など非連続した契約の非正規雇用において、香港では、上記の418ルールに要注意。上記のごとく、労働時間が連続4週間にならず、毎週18時間に満たない形での労働は法定最低水準の福祉関連の保障が喪失され、脱法空間、無法地帯となる。雇傭条例自体の福利がさらに適用されない。ここに労働者の悲劇がある。香港の労務環境の最大の欠点の一つである。
香港労働問題研究論考30章
(以下リンクより各論考へ)
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