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香港労働 Hong Kong Labor Issues #20 日本人のための香港労働問題研究:ストライキと経営陣の報復、そして政治利用

Updated: Aug 6, 2021

#香港労働法 #日本人 #HongKong #Labor #Issues

香港労働 Hong Kong Labor Issues

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香港の労働運動と政治利用

クーロンバス(九巴)のストライキ(罷工)を本年2月24日に結成間もない労働者の自主的な企業内労組である月薪車長大聯盟が、勤務中に(当然勤務中)決行し、基本給に酌量形式のボーナス(手当)を含めるよう要求して経済的な影響を与える程度に至らなかったとはいえ、香港の主要メディアを動かしメディア戦には勝利したかのように見えた。

しかし、メディアのほとぼりが冷めた現在、3月7日より普通解雇でストライキの当該労組のリーダー夫婦及び幹部が処分された。文面は、正社員の解雇時の最低通知期間である7日分の解雇予告手当が言及されているが、理由はない。

ストライキは、労組の単位で行っても規模が小さいと、メディアを動かしても、このように勤務中に個人の単位で行った規律違反、就業規則違反(これは雇用主が一方的に規定した者であり、それ自体民主的な手続きを経ていないし、就業規則と個別の雇用契約の関係は、前者によって後者が自動的にすり替えられる問題性を今も社会的に孕んでいる)として処分する常套手段を行使するという典型例である。

また、労働運動を通じて帝国主義政策を世界で行う国務省傘下のソリダリティーセンター(SC; Solidarity Center)が支援する工黨、職工盟の議員や、NEDやUKやEUの帝国主義の多国籍企業の利害を反映する香港眾志、同様に米国務省が扶殖しているエセ左派の社民連(彼らは、支聯会とともに米国務省の操作する反中組織で、尖閣問題では保釣聯盟という中国極右を装った組織を形成し、日中の衝突と緊張を米国のために作り出す香港最大の問題組織の一つである。反中組織は反日組織でもある。)がこの個別の労使紛争、本来個別の企業内の労使紛争から有機的に生まれた労働運動も取り込み、反中の陣営の利害に供しようと策動を既に開始している。運動の取り込みと主導権の乗っ取りの問題である。これが、所謂反体制派の運動を国際的に不能なものにしている浸透工作である。

中国の政治では、右派とは資本主義、左派とは社会主義であり、香港では建制とは親中であり、体制派であり、直ちに社会主義を意味していないが、それを容認している愛国愛港と通称される資本主義勢力であり、香港の反対派は、民主派と言われるが本来の左派でもなく、反共反中の側を体現している。支持勢力では、どちらも大ブルジョアジーの利益代表であり、後者は主として米英欧州日本などの西側の帝国主義の利益の代理人である。

労働者にとって重要なことは、このような労働帝国主義(Labor Imperialism and its network)という一翼に取りこまれることなく、ストライキの当該労組のリーダー葉蔚琳が言うように、「團結所有工會,保障所有工人」(全ての労組を団結し、全ての労働者を保障する)が正しいが、政治的に工黨の類との共闘はこの労働運動の性質を変えてしまう。(2)

当該労組の運動を後から工黨の類の操作として定義付けられないように、香港の既存の労資紛争解決手段に訴えるしかない。

このストライキの要求が過大であったという点も検討が必要だが、その背景は基本給と酌量の性質の諸手当による求人給与のかさ上げという求人詐欺及びその傾向が温床になっていることは無視できない。

そこで、現時点で写真のごとく、受諾のサインをせず、すべて要求も拒否することは紛争を有利に進める上で実は重要な契機である。結果は、どうであれ葉蔚琳が、受け取りのサインも拒否したのは正しい処理の仕方である。それは、受領のサインではなく、同意のサインとして曲解される危険性があるからだ。香港では、この様な詐欺手段をマネージメントは平気で行う。

ところで、ストライキは、失敗してもこのような労働者の勇気ある団結と行動は称賛に値する。日本以上の純正のネオリベ社会の香港で圧倒的に不利な社会的条件で、有効な抵抗手段がない中、抗議を行う態度は尊敬に値する。

また、受領のサインに過ぎないという詐欺手段もあり、それをサインさせたのちに周囲や会社には労働者側が同意したとして欺瞞を行う劣悪なマネージャーも香港には存在する。そこで、葉氏の様に書き込み形式で歪曲するのを防止する書き方も必要になる。

幸いなことに、これらの労働者たちは深夜に座り込みの抗議活動を行い、大手メディアや他の主要なバス会社の労働者たちの継続的な支援もあり、一時的に社内の紛争解決手段を試みるという妥協策で、経営陣との談合で解雇が一時的に取り消しになった。これは、注意すべきは、これは団交ではなく、任意の交渉の結果だと言うことで、主導権は企業側にある。

ここでのポイントは、香港の労働者たちには労組に団体交渉権がないという背景を考慮してみると、非は資本家側にあることが明白である。この点は、香港最大の労組である工聯會の名誉会長の鄭耀棠の言が面白い。

九巴若純因車長罷駛而解僱他們是不合理。
對九巴接連發生勞資爭拗是否與沒有立法制訂集體談判權有關,鄭耀棠認為沒有必然關係,又說工聯會一直爭取集體談判權。至於為何97年臨時立法會廢除集體談判權條例時投棄權票,他就說條例回歸前審議時間不足可能危害工會利益。(4)

つまり、ストライキをしたから労働者を解雇するというのは暴挙であり、このような階級闘争が激化する要因は、上記の言とは異なり、香港の労働者たちに団体交渉権がないことが一因である。あくまで、労資紛争の調停主義的な枠組みであるが、団体交渉権が中国返還前に否決されたことが今も尾を引いている。これは、必要であり、最低限の要求である。香港の廃止された団体交渉権条例は、欠陥だらけで、行使する際のハードルが高すぎる。それは修正または廃止されるべきではあるが、それがないことが労使紛争において労組に不利に働いている事実を否定するのは労働者への裏切りである。またそれがない中でも、彼らは、今回の労資紛争では社会的には確実に勝利したと言える。


Hardness of Labor Movement in Hong Kong

(3)

Notes


(1) (3) on.cc 東網 九巴工潮:秋後算帳 葉蔚琳與夫齊收解僱信 2018年3月6日 下午7:26 Yahoo Hong Kong News, accessed on Mar.6, 2018.

(2) 香港01 【九巴炒葉蔚琳】不接受解僱 葉蔚琳:將諮詢律師、勞工處 2018年3月6日 下午8:46 Yahoo Hong Kong News, accessed on Mar. 6, 2018.

(4)now.com 新聞 鄭耀棠:九巴解僱車長觸動工會底線 2018年3月7日 下午7:15 Yahoo Hong Kong News, accessed on Mar.7, 2018.

 

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(以下リンクより各論考へ)

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