香港労働 Hong Kong Labor Issues #21 日本人のための香港労働問題研究:労働裁判上の偏見及びその他の上訴のシチュエーション
Updated: Aug 6, 2021
#香港労働法 #日本人 #HongKong #Labor #Issues
上訴事由としての偏見
敗訴した一方の側は、裁判官が偏見を持っているとして、それを理由に上訴の理由にできる。その際の偏見とは何かが重要なポイントになる。
表面的で、簡単に判別できる偏見とは、表面の状況、状態を判断基準にする場合である。
例えば、ある人の皮膚や背景を判断基準にする場合である。
困難なのは、人間が学習する方法や、帰納の方法にこのような偏見の傾向が既に内在的にあることである。常識的にあからさまに差別を差別として表明してくるお人好しの加害者はいない。
香港の人事部も、人材エージェントもその就業差別を差別としては否認しながら、別の名義、別の表現、別の法的体裁の下に行う。人事部は、必ず絶対に差別を、その存在を否認する。大事なのは、差別であるか否かは、まずその被害者が判断し、訴える権利があるという事だ。
加害者が、被害者に代わってその非を判断するというは公正な条件下ではあり得ない不条理である。この様な展開自体が差別の論理、差別の現象を動的に顕在化させ、その存在を示す事になる。事後の対応の仕方も差別の存在を規定する。
香港の法的な偏見の定義
偏見というのは、判決において不当であるという上訴理由にできる概念であり、これを活用しない手はない。ここでは、偏見とは上訴事由を構成する法律概念である。偏見と差別は同義語で、不可分の性質である。
偏見あるところに差別があるというのは、それが権力や支配的な経済的立場と結びついているところで真理である。偏見は、差別であり、暴力である。
香港の法律上の、判決における偏見は大きく二つの概念がある。実質的偏見(Actual Bias)と表面的偏見(Apparent Bias)である。
実質的な偏見とは?
判例法理としては、香港政府がお馴染みの米帝漢奸、似非中華ゲバラである梁國雄を告訴したケース、2007 10 HKCFAR 14において定立された。
実質的な偏見とは、裁判官が判決の事情と結果に利益関係があること、裁判官が特定人物に偏見があること、例えば、すべての被告が問題ありでなければ起訴されることはないという類。または、ある種の人間は生まれつきの犯罪者であるとか、あるケースの審議である種の偏見を表す場合である。
この判例では、裁判官がすべての証拠を聴取しないのに主観的に判決を下さす場合である。
上訴においては、元の裁判官が実質的な偏見を持っているかの証明は不要であり、ただ表面的な偏見を持っていることを証明すればよしとなっている。これは、技術的な概念で、一般とは異なる点に留意がいる。
ここでは、全体の証拠を見ない内に判決を下すという行為が、その不備の事実が、偏見を構成する事実として、つまり偏見として認定されたのである。
正確な審議の手順を踏んでいない場合
この場合も、偏見同様上訴理由になる。勞資審裁處条例第20(1)条では、もし基本的な幾つかの手順を踏まないなら、この判決を翻しても良いとなっている。これは、判例法理としては、黃治蓉 が、安達系統有限公司を告訴したケース、HCLA 108/2002で定立された。
20.
Hearing to be informal
(1)
The hearing of a claim shall be conducted in an informal manner.
(2)
The presiding officer may subpoena witnesses, order the production of any document, record, book of account or other exhibit and put to a party or witness such questions as he may think fit.
(3)
The presiding officer shall investigate any matter which he may consider relevant to the claim, whether or not it has been raised by a party.
双方がちゃんと陳述できる機会を与えるのは基本的な手順である。一方的に言い渡すだけでは、民主的ではないし、公正さに欠如すると言える。これは、裁判に限らず、紛争解決時の基本的な手順である。
労働者側は、相手が一方的で自身に異議申立てる機会を与えているか注意深く観察するべきである。
また、即時解雇で補償不要に関する紛争の場合は、雇用主に証明責任がある。雇用主側は最後に発言する権利があるとされる。
和解命令に上訴は可能か?
これに関する判例法理は、C.Y. Tsui Investment Company Limited v The Incorporated Owners of Hoi To Court (HCSA 16/2003)で確立している。
このケースで裁判官は二種類の和解命令(Consent Order)を出した。一つは、双方の協議を包括しかつ証言する命令であり、もう一方は時間と訴訟費削減のために異議なく出された命令である。
前者を翻すのは困難であり、それには合約を覆す根拠が必要である。つまり、詐欺、違法性、過ち、ミスリードなどである。これらは、法律概念に則り、普通の人間の概念とは異なる適用であり法律知識が必要である。
後者は、協議の命令であり、元の裁判官が法律上の誤りを犯したのを証明するだけで十分である。
法律上の過ちが判決を覆す理由にならない場合
この判例法理は、陳炳佳及びその他二人が天和工程有限公司及び八人を告訴したHCLA 19/2011で確立された。
結論が正しく、実質的で、重大な影響や損害のない過ちであれば判決全体を翻す必要性はないという法理が確立したのである。
香港労働問題研究論考30章
(以下リンクより各論考へ)
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