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香港労働 Hong Kong Labor Issues #23 日本人のための香港労働問題研究:労働訴訟の費用問題について

Updated: Aug 6, 2021

#香港労働法 #日本人 #HongKong #Labor #Issues

世界一のネオリベ社会で無料の労働裁判はない

労資審裁所の訴訟費用は、無料ではない。ここでは、労働審判という香港では和解という妥協案に陥る傾向がある法的手段についてこの問題を考察する。プロレタリアートが面する労働問題のケースに応じて、二つの裁判所が存在する。労資審裁所小額銭債審裁所である。どちらも香港では、日本と異なり基本は未払い賃金など金銭問題を主として扱う。金で何でも物事を解決する中国人の傾向が強く反映されている。

基本的に、調査不足と法律の誤用は上訴の二大理由となり、この二つだけでなく、公正な弁解の余地、機会を与えなかった事もこのようなエスカレーションの十分な理由になる。これらは、会社内の解決手段の行使時にも類した抗議理由になる。しかし、香港でも会社内の解決手段は基本経営側の味方であり、労働者側に立つ解決というのは空想である。

香港は、2018年現在でも世界一位の資本主義的自由を享受する米国以上のネオリベ社会である。つまり、世界で最も労働者階級の不自由な社会である。自由とは資本家階級の自由である点に留意が要る。

世界で最も人権を蹂躙された労働者階級は香港の労働者階級である。

これこそ私がいることの意義である。逃げるか?いいや、死ぬまで社会悪と戦うのが自覚した労働者だ。

訴訟費用:原告は辛いよ?

労資審裁所に訴え出る場合の費用はまず、20香港ドルから50香港ドルというように有料といっても廉価である。しかしこれは、申し出の要求金額により変化する。価格変動制は香港市場の普遍的な商品価格の現象で、日本よりも変動制が一般的である。

この他は、各住所への召喚状の送付の費用10香港ドルがかかるのみである。特別送達ではない。そして、これらは、全て労資審裁所へ支払い、返金はない。

これら以外には、住所変更や申し出変更などの変更手続き、証人喚問の費用がかかるだけである。

被告は、全くの無料である。しかし、その他に証人喚問する場合は別途費用がかかる。

訴訟費の概念

この概念は、法廷の費用はここでは意味しない。元々の訴訟費の概念は、もし一方の側が勝訴した場合、その裁判により発生した合理的な損害の全てを敗訴側が全て負担するものである。例えば、賃金、訴訟申し出の費用、会社の登記調査、証人の費用などである。ここでの相違は、労資審裁所は弁護士による代理代弁が不可であり、弁護士費用が含まれない点である。

これは、労資審裁所条例の第28条に規定されている。

28.

Costs

(1)

Subject to subsection (2), the tribunal may award to a party costs and expenses, which may include—

(a)

any reasonable expenses necessarily incurred and any loss of salary or wages suffered by that party; and

(b)

any reasonable sum paid to a witness for the expenses necessarily incurred and any loss of salary or wages suffered by him,

in attending a hearing of the tribunal or in being interviewed by a tribunal officer.

(2)

In making an award of costs under this section, the tribunal shall include a direction as to the amount to be paid by each party who is so liable to pay costs.

(3)

An award of costs shall be enforceable in the same way as any other award made by the tribunal.

ここで注意するべき二つの点がある。1つ目は、調査官に会う時間の費用も賃金損失の概念に含まれるが、以前に労工所で会った時の時間まで遡及しない。2つ目は、もし独立した経営者であれば、その収入は賃金とは言わない

小額銭債審裁所の訴訟費

小額銭債審裁所と労資審裁所の訴訟費の概念は類似している。小額銭債審裁所条例第24(1)条により規定されている。しかし、これは労働雇用関係の問題ではなく、より一般的なお金のトラブルを扱う。

24.

Costs

(1)

Subject to subsection (2), the tribunal may award to a party costs and expenses, which may include—

(a)

any reasonable expenses necessarily incurred and any loss of salary or wages suffered by that party; and

(b)

any reasonable sum paid to a witness for expenses necessarily incurred and any loss of salary or wages suffered by him,

in attending the hearing.

(2)

In making an award of costs under this section, the tribunal shall include a direction as to the amount to be paid by each party who is liable to pay costs.

(3)

An award of costs shall be enforceable in the same manner as any other award of the tribunal.

しかし、訴訟費の額は申し出内容の規模に応じて変化する。まず、それは裁判に出廷する者たちの賃金額の大きさにも左右される。数百香港ドルの交通費やコピー費だけではない。

出廷回数訴訟費の額を相対的に増大させる要因である。例えば、ケースが初審(Call-over)、人身の自由についての審理請求(Mention)、そして審議(Trial)の段階を経て調査官と面会を4回以上し、審議後、合計時間が6から9ヶ月となると数千香港ドルになってくる。

上訴の訴訟費

上訴の訴訟費は、当然弁護士費用を包括してくる。上訴はまず、一方的に申請するものである。高等法院の裁判費用は、これまた廉価で、45香港ドルに過ぎない。そして、期日を決めて上訴するのにさらに1,045香港ドルがかかるが、これはまだ費用における最高額ではない。

もし一方が、有限会社(日本では、有限会社Inc.は形式上はない、もしくは日本のみというのは明らかな過ちであり、香港に存在している)であるならば、それは弁護士が代表しなくてならない。

労働問題の上訴は、弁護士が必須になる。しかも、ただの弁護士では上訴しても発言権(Right of Audience)の問題がある

香港でも弁護士は、時給である。これは、そのケースの為にどれだけの時間を割いたかによって弁護士料が計算される。相場では、一時間当たり2千から4千香港ドルである。

大弁護士という肩書きでないと発言権がない

しかし、上訴で必須なのは大弁護士である。彼らは、大弁護士でないと発言権がないからである。従って、ただの弁護士を雇っても上訴で役に立たない。

大弁護士達は、香港では出廷した日数で報酬計算するので日給である。初日の費用を決めてから、以降毎日いくらと決めていく。具体的な額は年収や経験により双方の協議で決定していくのが一般的である。数千から数万香港ドルを日給として払う

上訴では、敗訴すると相手の弁護士費用も払わなくてはならないが、それは訴訟が終了した時点での具体的な計算を要する。アプリオリには決まらない。

裁判官による訴訟費への酌量権

裁判官は、訴訟費に関して法的制限下での酌量権がある。上訴して、敗訴した側が相手の訴訟費も負担することになるが、これは原告が多くの項目で訴訟を起こし、被告が全て否定した場合、原告が全ての項目で勝訴していなくても、原告の勝訴になる。

なぜなら、原告は引き続き訴訟を継続しなくては、彼が勝訴した項目で申し出たものも得られなくなるからである。

しかし、勝訴したが金額が少ない場合、これは別問題になる。

これ以外に、被告が申し出た和解金額が結果的に勝訴した額より多い場合は、継続して訴訟することが無理になる。この場合、原告は被告が和解金額を提示した後の訴訟費を負担しなくてはならない。

また、上訴の訴訟費は、訴訟の要求額が大きくなると訴訟費の上限の額も上がる

訴訟費なしの命令 

この概念は、労働者が上訴して労資審裁所の裁判官の調査不足や法律上の誤用が災いして敗訴したケースにおいて特に重要になる観点を提供する。

これは、各自、法廷の費用も含め自分の側の弁護士費用を負担することである。これは、労資審裁所の裁判官の過ちであり、訴訟の当事者たちのミスではない場合である。

香港の特殊性は、この点労資審裁所と高等法院の裁判官の義務の差異にある。労資審裁所の裁判官は、調査の責任がある。従って、労資審裁所の裁判官の調査とその結果は上訴し敗訴した側の負担になるべきではないという判断がされる場合である。

香港労働問題研究論考30章

(以下リンクより各論考へ)

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