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香港労働 Hong Kong Labor Issues #25 日本人のための香港労働問題研究:誰でも分かる雇用条例の要点

Updated: Aug 6, 2021

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 香港労働 Hong Kong Labor Issues

労働法は義務教育が必要

雇用条例は、日本の労働者がちょうど労働法教育を義務教育ですら受けることがなく、問題にぶつかって初めて学び始めるように、香港でも義務教育では教わることはない。必要性は日本同様に当然ある。しかも、香港の労働関連法制は、雇用条例だけではない。

さらに、弁護士達も労資審裁所が弁護士による代理が不可能なため、細部や要点は不明瞭である。

各専門領域の生産、労働は、当然その国の労働法制と経済的土台、労働を行う生産様式に制約される。労働法制は、義務教育の科目に入れるべきである。これが、労働者達にとって死活的に重要であり、無知のままに置く愚民教育が資本家達のために21世紀の現在も行われている。これは、100年以上前の状態と同じである。

雇用条例の必要性

香港では雇用条例が制定される1968年以前は、奴隷条例であり、よりネオリベであり、市場の機能に全て放任されていた。労使関係は、労資双方の個別の協議で全てが決められていたが、何が合理的かの合理性の概念も、合法性の概念も欠如した無法地帯だった。

しかし、2018年現在香港は、資本家の自由度が世界一であり、労働関連に関しても労働者の不自由度は世界一である。法的体裁と賃金に関しては多少の制約はあるが、雇用条例が機能する代物ではないというは事実である。香港では、全ては資本家の自由の為に組織される

植民地時代に、市民は漸次的に市場による労働者の待遇の決定の仕方に不足があることに気づいた。その原因は、労働者と資本家の交渉能力が不均等だからである。労資は平等ではなく、力関係においても労働者に不利である。従って、労使間での中立というのは、資本家側に立つことを意味する。

香港の労働組合は、労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)の内、団体交渉権がなく、それの代わりにイタリアのファシストであるムッソリーニが1927年に創設した様な、労資官の唯一の法的拘束力のある交渉の場である労工顧問委員会に工聯会と6人の代表という改良主義的な労働貴族に全ての交渉が集約されている。

これは、ファシズムの労働政策そのものである。ファシズムの語源の如く、まさに本来各労組にあるべき団体交渉権が官僚主義的機構の一手に束ねられている。これが、社会的な労働者の不満の温床である。

職工盟は、反対派を支援するソリダリティーセンターの御用労組だが、こうした反対派はまさにこの不満を利用しているのである。従って、この全体の仕組みを変えない限り、この工聯会と職工盟というどちらも負である対立項は解消されない。

傾向としては、工聯会はムッソリーニ式の労工顧問委員会による法的交渉の独占、職工盟は全ての労組に団体交渉権を実現させようとするが、その団体交渉権条例は不具なもので労働者の立場に立つはずの現実性がない。つまり、結論としてはどちらも肯定できない。

香港には、労働三権がなく、本物の労組は存在しない。労働三権は、一つでも欠如すると他の権利も否定されたに等しい。

労働者の権益を保障すること、これが、文字通りこの雇用条例の建前上の本義であるが、同時に労働者の問題の解釈の拘束でもある。つまり、資本家は、その条例に明記されていないものは何でもありなのである。ここに資本家の自由がある。

The Employment Ordinance is the main piece of legislation governing conditions of employment in Hong Kong. Since its enactment in 1968, the benefits provided for under the Ordinance have been substantially improved. It now covers a comprehensive range of employment protection and benefits for employees. (1)

- EMPLOYMENT ORDINANCE, CHAPTER 57

雇用条例の序言でも、明確に本条例は労働者の賃金の保障の為に条文を制定する趣旨が書かれている。賃金保障の点が強調されている点が香港の労働法制の価値観を示している。

All employees covered by the Employment Ordinance, irrespective of their hours of work, are entitled to basic protection under the Ordinance including payment of wages, restrictions on wages deductions and the granting of statutory holidays, etc.

Employees who are employed under a continuous contract are further entitled to such benefits as rest days, paid annual leave, sickness allowance, severance payment and long service payment, etc. (2)

- Hong Kong The Employment Ordinance

雇用条例の定める保障の範囲

膨大な条項になるが、重要なのは11のポイントである。この11のポイントが最も基本的な条件を規定しているので、輪郭を把握することができる。

1、金銭補償の不要な即時解雇のできる状況は何か。(懲戒解雇の条件)

2、労働者が解雇されても比例に応じたダブルペイを得られる。(懲戒解雇以外)

3、産休の保障及び産休取得期間の解雇不可。(懲戒解雇以外)

4、病気休暇の福利及び有給の病気休暇時の解雇不可。(懲戒解雇以外)

5、労働災害時の労災認定前の解雇不可。(懲戒解雇も不可)

6、有給休暇及び毎年付与の年休の保障、休暇(有給無給)の保障

7、任意の賃金控除の不可の保障

8、連続勤務2年からある事業閉鎖や部門閉鎖時の遣散費と呼ばれる整理解雇の金銭賠償

9、連続勤務5年からある解雇された場合の長期勤務に対して払われる長期服務金

10、ある種の状況下での手切れ金(雇用関係終了に関する補償である終止雇用金

11、契約が合意後も雇用条例に違反している場合は、雇用条例を優先する

以上は、全てではないが、重要な輪郭を形成する要点である。特に、遣散費と長期服務金と終止雇用金は、条件も別物なのに、この3つを混同しているケースが多い。

労働者は、この法制では基本的にいくら金銭的補償を資本家から引き出せるかが重要になる仕組みであり、解雇による復職令は日本ほど強制力はなく、あくまで資本家側の同意なしには法廷は復職令を出せない。

しかし、この点は多少修正され、2018年雇用(修正)(第2号)条例で、労資審裁所の復職命令で同意を不要としたのは進歩ではあるが、以前として金銭解決が可能で、上限総額72,500香港ドルの3ヶ月分の賃金別途支払いで放免となる。解雇問題は、とりあえず、斡旋ではなく、労資審裁所に申し立てるべきである。

雇用条例の準則

雇用条例の準則とは、雇用条例に違反していない限りはどのような労働条件であれ、労使双方の協議が優先されるという法的原則である。

これは、例えば、契約上資本家が解雇に必要な通知期間が1週間で、労働者側が辞職する場合一ヶ月も必要になる場合、違反しているか否か?

雇用条例第70条は、香港で常時横行している求人詐欺から労働者を守る最重要条項である。

70.

Contracting out

Any term of a contract of employment which purports to extinguish or reduce any right, benefit or protection conferred upon the employee by this Ordinance shall be void.

(Added 5 of 1970 s. 8)

これは、事後の契約上の内容の変更にも当然適用されてくる。契約書は死んだ石版ではない点に留意がいる。

契約内容は、業務命令の形や実は実際の現場のオペレーションの仕方でも巧妙にすり替えができてしまうのである。

香港では、奸計にだけ長けた者たち(マネージメント・チーム)は、契約書の内容を順守せず、巧妙にオペレーションの仕方や指示系統のすり替えなどで契約内容を文字面を変えずにすり替える。これは、日本では職場のいわゆる先輩なる者が勝手にこのような奸計を行う場合もある。これを無秩序と言う。

雇用条例第70条によれば、労働者の法的保障を喪失させたり、減少させる契約条項は無効になる。一方的な変更を制約しているのが特徴である。

それでは、例えばこの事例における通知期間の長短は、雇用条例及び判例法理では、雇用契約の解消は通知期間か代通知金と呼ばれる解約予告手当で法的に行える。

しかし、試用期間に関しては、そもそも試用期間を設ける法的規定はない。そこでは、試用期間がある場合にその試用期間における法的な通知期間が設けられている。ここでの重要な点は、試用期間自体が法的には必要ではないということである。

双方の法的な通知期間は、1週間に過ぎない。条例及び法例は、特に通知期間の長短の上限を決めていない。逆に言うと、試用期間を設けると最初の一ヶ月は無償の即時解雇ができてしまう。

試用期間を設けなければ、最初から通知期間の縛りが労働者を保護することになる。実は、試用期間は労働者側のためにあるのではない。

試用期間は、資本家のためにあり、実は名前が示すように労働者のためにあるのではない。ここにとんでもない勘違いがある。

最初の契約時に試用期間の有無や長短を明確に取り決め、際限のない延期の手口を防止する工夫が必要である。日本では試用期間の延期という慣行はなく、最初の提示した期間がすべてである。香港は違う。香港は、資本家のやりたい放題の世界一の雇用主の天国である。

このように通知期間の長短の不均等があっても、法的には問題がないことになる。事実上、雇用条例では労働者を保障するための不均等が多くある。民事、刑事両方に跨る。

例えば、福利はすべて労働者のものであり、各種の責任は資本家にあり、資本家は賃金支払いの期限順守の刑事責任が日本より重い。さらに資本家は労働者が離職した最低7日以内に未払い賃金を支払わなくては、刑事罰を招来する。

労働者にさらに有利な点がある。それは、労働者は失踪して解約予告手当を払わなくても、その支払い期限は法的にはないし、離職後に解約予告手当を払わなくても刑事罰はない。これは、労働者を奴隷と別つ有利な点であると言える。

ここで注意は、通知期間の労働者に不利な不平等は立法により改善されるべき労働問題の要因の一つである。これに関しては、第70条により無効だとの労働者側の主張があり争う余地があるものであることも視野に入れて理解しておくべきである。

第70条で無効にするのは雇用契約に問題条項が明記される場合

第70条が最大限労働者を保護する条項であり、これに関しての労働問題が極めて重要になる。この条項を脱法しようとする手口との戦いがある。

第70条で問題の契約条項を無効にするには、いくつか条件があり、一つはその問題条項が雇用契約書に明記されている場合である。そこで、双方が雇用契約を解除した後、協議をして達した内容は、この範囲に入らないという見解がある。

そこで、その事後に協議した内容が有効であるかは契約の形態をとっているかによる。つまり、双方が対価を支払う形になっているかがポイントになる。

どうしてこの第70条の脱法の手口が問題になるかは、最低賃金法が制定されてから賃金の上昇を危惧した資本家側が、5年長期勤務している労働者を一時施行前に解雇して、長期服務金を放棄する旨を再契約の条件にする卑劣な手口が流行したからである。

ここでは、長期服務金の放棄を雇用継続の条件としている場合、この条件は新たな契約書に明記されていなくても、契約の形をとる。もしこの条件を契約書に明記すれば第70条で無効にできる。