香港労働 Hong Kong Labor Issues #28 日本人のための香港労働問題研究:休日の概念と休日の補償について
Updated: Aug 6, 2021
#香港労働法 #日本人 #HongKong #Labor #Issues
休日(休み、休息日)とは?
香港では、休日の概念も休日に関する補償も極めて重要で、休日概念は入り組んでいてトラブルの元である。休日を規定している条例は二つあり、一つが民間の法定休日を規定する雇用条例であり、もう一つが金融、政府行政機関の法定休日を規定する公定休暇条例である。
雇用条例第17条では、連続して雇用される労働者には、7日間に1日の休日が法的に保証されている。これは、日本と同じ法定休日である。
17.
Grant of rest days
(1)
Subject to the provisions of this Part, every employee who has been employed by the same employer under a continuous contract shall be granted not less than 1 rest day in every period of 7 days.
(Amended 71 of 1976 s. 3)
(2)
Rest days shall be in addition to any statutory holiday, or alternative holiday or substituted holiday, to which an employee is entitled under section 39.
(Replaced 39 of 1973 s. 3)
休息日(休日)とは、雇用条例第2条で労働者は最低二十四時間を下回らない連続した期間に資本家のために労働をしない権利が認められていることである。つまり最低限1日の休日は保証されている。香港のブラック企業も週一日の休日ラインかそれ以下である。この休日概念は抽象的に日本と同じである。
rest day (休息日) means a continuous period of not less than 24 hours during which an employee is entitled under Part IV to abstain from working for his employer;
(Added 23 of 1970 s. 2. Amended 71 of 1976 s. 2)
連続した週休2日制が香港でも良質な企業の特徴であり、中には週休1.5日とかシフト制の中でのバラバラな週休2日制はその無理矢理な程度の異なる劣化版と言える。後者はもちろんスタンダードではないし、優先的選択肢でもない。建前上の週休二日制も、その実際が固定した週休二日制か、シフト制かの実際の運用上の差異がある。
労働者に敵対的な制度や法改正なるものは、総じて労働者の無償労働分の増大や労働コストの減少の方向にある資本家による1%のための民主主義の産物である。民族的観点ではなく、万国共通なのは、階級的観点であり、階級的観点は常に社会問題の導きの糸である。階級的観点は、政策を見極める上でも社会的に重要な判断の基礎である。階級的利害に合致した政策、方向性を選択する事である。
休日は有給か無給か?
香港(中国の一地方都市としての特区)の法例は、休日を有給か無給か規定していない。休日が有給か否かは完全に労資の協議、契約及び過去の計算方法に委ねられている。
資本家は、緊急の事故の場合のみ合理的に労働者に休日労働を要求できる。これは、理性の範囲内で了解はできる。あくまで突発的で緊急事態での休日労働の要求は、公序良俗の範囲の様で、資本家の私的利害の範疇を越えない。資本家には、公序良俗の観念は関係ないからである。
また、その他の状況下では労働者は資本家のために休日勤務するかどうかを任意で判断できる。
ただし、任意で休日労働する場合に残業代があるか否かは、香港では人工的に残業代法制が欠如しているので、また問題となる。
残業代を払うか否かは、法的に規定がなく、あくまで労資双方の協議によるとされる。これが、香港の労働法制が欠陥品であることを示しており、日本以上の無償残業の社会となっている元凶である。この法的欠陥に立脚して労働貴族の交渉権の独占と既得利益を守り、労資協調主義を放置する事は労働者階級全体への裏切りである。なんとなれば、他の労働者及び労働組合の労働三権が蹂躙され、法的に保証されていないから、実は一つも労働三権を有していないに等しい。
判例法理:曹国偉と国際中懋有限会社(HCME 12/2007)の判例では、土日が休日と明記されている契約なのに、上海へプロモと販売の営業の活動を雇用主の代理で行うべく交通手段が雇用主の手配で出張した労働者は、少額薪索償仲裁所へこの2週間の出張中に各2日間の土曜日曜日分の休日労働賃金と残業代(この場合超過勤務への補償)を要求した。最初の法廷では、4日間とも休日勤務日として認定され補償が命じられた。
ところが、高等裁判所では先の下級法廷が労働者の側しか考慮せず、双方の協議内容を考慮し、暗示条項の有無を裁定するように判断した。ブルジョア的に覆したのであり、双方の協議なるものはこの様に、必然的に労働者への不利に終わるのである。
明文なき暗示条項に関しては、双方が共通した認識を有していない以上、法廷はいかなる暗示条項も推定できない。そこで、事実関係を確認するようになっている。
この場合、その企業内における労働者のタイトル、職位が決め手になる。いわゆる高プロか否かである。
もし、仕事(賃金労働)がマネージメント層であるか専門職である場合、労資双方の意見も一般の労働者に休日労働の補償があるという一般的見解とは異なると考えられる。
つまり個々の労使関係を見て、労働者の職位が経営陣と一体化しているか、それとも高度専門職に該当するかで、この問題の裁量も正反対のものになるということである。
高プロであれば、当然休日でも無償労働で、残業の補償もないのは職務上仕方がないという見方が通用している。これ以外に、仕事の性質も報酬もそれなりのリーダー格のものであると考えられる。
一般的に香港の高プロは、残業手当なしで、つまり休日の補償なしであり、そのような長時間労働が成果を達成する道だと考えられている。このような無償の長時間労働は当該職務の必須条件であるが、同類の職務が全て同様に無償であるとは限らないと考えられている。その場合に、賃金にすでにそのような長時間労働分が含まれているとする論法が成立するからである。ここにブラック的で法的な統制がない領域が広がっているし、放置されている。
八時間労働制と十一時間の勤務インターバル制はともに労働者をネオリベ社会において生存権を保護する必須の制度であり、前者に残業代法制は不可分に結びつく。もちろん、これはサービス業でもっとも状況が悪い。そして、これらの100年前に他国の社会で実現している労働運動の成果が香港ではまだ実現していない。100年立ち遅れている。労働環境面では、第三世界よりも遅れている。
休日補償のトラブル
香港の休日補償(手当)の争議が最も多いのが飲食業である。
例えば、労使契約で、法定休暇、休日3日としてある場合に、労働者が毎月2日の休日が勤務日になる状況が生まれると、資本家は労働者が自らの希望で契約したのであり、2日の休日労働は自らの意思であると主張する。そして、補償は賃金にすでに含まれていると主張する。日本の固定残業代制もこの方向で作用する同質の労働問題である。すでに賃金に補償は含まれているという詭弁である。
判例法理:任瑞威とその他9名の灣仔新光酒樓に対する訴訟案件(CACV 1950/2001)では、法定休暇の買取は無効との判決が出た。法定の休暇は、毎月、4週間で4日は法定の最低基準であり、この中の2日間を資本家が買取という契約に合意したからといって、これは違法であり、買取は無効である。
本人たちがよくても、世の中の労働者たち全体の福利の水準を下げてしまう事例を作るわけにはいかないので、当然の判決である。この階級全体への影響という観点が往往にして欠如している。
違法な、つまり雇用条例の法定基準を下まわる労働契約(部分の条項の違法性は、全体の問題性である)は雇用条例第70条で無効である。合意やサイン、捺印は当然無効である。
70.
Contracting out
Any term of a contract of employment which purports to extinguish or reduce any right, benefit or protection conferred upon the employee by this Ordinance shall be void.
(Added 5 of 1970 s. 8)
判例法理:Hang Fook Lau Seafood Restaurant v Kwok Sek Tuen (2001) 2 HKC 69 において、法理は確立した。この案では、弁護側は合法性を訴えるために雇用条例第20条の休日労働の請求は雇用前にも適用されると主張したが、これは雇用期間のみに適用され、雇用期間においては、労働者はさらに第4部に掲げる労働者の休日労働の裁量権がある。
(1)
Subject to subsection (2) and section 69, this Ordinance applies to every employee engaged under a contract of employment, to an employer of such employee and to a contract of employment between such employer and employee.
労働者を契約で縛り、あらかじめこの雇用条例で保障された休日労働の意思の自由を勤務以前以後においても否定することは違法である。要求できるのは緊急時のみである。
労働者は休日において休日を取り、資本家の休日労働の要求を拒否する権利があり、拒否したために雇用に悪影響が出てはならないという権利が保障されている。
この場合、この労働者は雇用される前に休日労働の選択の自由が剥奪されている。しかし、雇用後に、休日労働を拒否する権利はあり、そのことで解雇するのは違法である。
この契約書で最初に休日労働を規定するのは、法定の7日間に1日の休日保障と矛盾する。契約上、形式上それらの権益を放棄して、毎回の休日の選択をするのは、いわゆる自主的な自由意志によるもので、自主的な契約で、第20条の方の保証する自主性とは異質である。この場合の契約では、労働者は12日間の法定休暇しか取れない。また、資本家が休息日に賃金を支払っている場合は、労働者は多重に利益を享受できない。問題は、そもそも違法であるという事だ。意味をなしていない。
休息日条例は、刑事告発に依頼する必要がある。そこで、何が合法的な契約条項になるのかは、判例法理:孫曉蘭とその他2名のLeung King Catering Holding Limited trading as Capital Restaurant (HCLA 114/2003)の案件において明確になる。
このケースでは、休息日は、試用期間が過ぎて、正式に雇用され、毎週1日は無給の休日がある。そして、休日労働は、上司に申請して、店長が許可して行える。その休日労働の賃金は、その月の月給と一緒に計算する。
労働者が自主的に願う場合、上司に申請して、休日労働を行う。そして、額外の賃金を得る。基本給と休日労働の賃金は分離されるべきものであり、休日労働分は当該月の基本給の一部分ではなく、別途支給されるべきものである。これが、合法的な休日労働であり、許可しないのに、休日労働を自発的にさせるというのは違法である。
許可しないが、やらないと問題になるという形の暗示的な脅迫をかけるマネージメントは批判されるべきブラック企業の特徴である。
法例は、それでも多くの協議の空間を残しており、問題もそれに伴って生まれる。契約上残業(休日労働含む)を規定することは、実は法定休日取得、第20条の自発的な休日労働の選択権を剥奪する。ここでは、残業が休日労働の概念の範疇と重なる点を無視できない。この点は日本も同じ。
現在も未決の問題点は、この残業代支払いの有無があくまで双方の協議に委ねられている点である。
これは、例えばハウスキーパーが休日労働を数時間する場合に、その数時間分を残業(追加労働)する場合、1日分を要求するか、時給計算で残業分を要求するかの労使紛争になる。
八時間労働法制は、残業法制を付随する。また勤務インターバル制は香港の労働者の生活水準及び健康水準を上げる。ネオリベに抗いこれらの制度を実現する以外に香港の長時間労働と残業代なしの現状は不変である。如何なる利害関係で拘束されようとも、これは断固批判しなくてはならない労働者階級への裏切りである。
香港労働問題研究論考30章
(以下リンクより各論考へ)
...................................................
香港労働Hong Kong Labor Issues #1 日本人のための香港労働問題研究:香港と日本の労働環境の基本的差異と労使紛争時の注意事項
香港労働Hong Kong Labor Issues #2 日本人のための香港労働問題研究:労働者をフリーランスとして雇用する手口に注意!