香港労働 Hong Kong Labor Issues #30 日本人のための香港労働問題研究:紛争の2大領域としての合法性、合理性と労使関係の制約について

Updated: Sep 12, 2020

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香港労働 Hong Kong Labor Issues

労使関係の制約について

批判的研究を果敢に開始して1周年となる記念すべき本論考では、体系的な総括として、資本主義的生産様式(労使関係とそれを規定する資本家所有の生産手段・設備を用いる労働の社会的運動の具体的な総体を指し、抽象的な静態的な概念を指さない)、つまりここではその資本主義社会の経済的土台をなす生産関係に関するいわゆる制限条項(制約条項)について詳論する。

制約、制限条項とは、英語でrestrictive covenantと呼称される法律用語である。ここでは、制約、制限条項は、労働者と雇用主の間の制限/制約である。であるからして、雇用は労働市場での労働力の購入ではあるが、一般の売買における制限条項とは区別する。

制約の一般的表現

一般論としては、労使関係における制約とは、雇用主である資本家が労働者をある時間内拘束し、ある地域場所でその資本家と競争関係にある仕事についてはならない制約、当該雇用主の顧客や職員を奪わないこと、会社の商業的機密やビジネス情報を漏らさないことなどである。問題は、これらのいわゆる雇用契約上の制限条項が香港で有効か否かの問題がある。

制約の法律的効果

一般論として、香港の労働環境では契約条項がどんなに不合理でも雇用条例に抵触しなければ懲罰的条項でなければ、有効であるとされるので要注意だ。

そこで、調子に乗って雇用条例の最低限を基準にする契約を結ばせたり、休日労働に関する選択の権利を運用上剥奪させたりしようとする。

この辺りの程度が、最低限ラインに単に近いものであればあるほど、その企業の、そしての人事部のブラックの程度と比例する。

ところが、制約条項となると合理性の証明が法的に要求され、それを満たせないと有効にならない

労働紛争における合法性と合理性の二大領域

合理、合理性とは何か?合理とは、単に労使双方にとって合理的ということ(reasonable)だけではない、さらに、それが公衆の利益に合致する場合(public interest)のみ合理的となる。合法性以外に、この合理性という法的概念は香港では極めて有効である。合法というだけではなく、合理性という点での紛争が可能である。覚えておくべきは、これはどんな労働問題の処理の上でも有効な概念である。

公序良俗合理性、そして合法性である。合理性、公序良俗と合法性は、法的欠陥や運用上の問題において、合法性と等値ではない合法性を正す為に合理性、公序良俗(公益)の概念がある。

香港の労使紛争は、大きくこの雇用条例との合法性の面と、合理性の面の二つの面で展開が可能である。

間違いなく、この二つの面で資本家側の弁護士は考察してくる。もちろんこれは民事訴訟で行くことになる。労働者としては、双方にとっての合理性を否定し、さらに公衆の利益にも反する不合理なものであることを主張する必要がある。どれか一つを否定すれば成立しない。ここで、サインをしない、ハンコをしないという断固たる処理が活かされる。

もし裁判で、不合理の判定が出たとする。例えば、拘束時間が長すぎる場合。当然、八時間労働制はない社会なのだから、12時間ということもありうる。8時間労働制がないことから平気で、9.5時間とかぬかすマネージメントもいる。

話は逸れたが、法廷はこの場合当該契約を書き換えることをしない、ただその条項は無効であると判定する。これは、法廷が契約の書き換えをすると、おそらく一方が比較的長い制約時間を希望したり、合理的な短い時間に書き換えるのは弁護士の仕事だからである。

判例法理:Kao Lee & Yip v Edwards (1993) 1 HKC 314.CAでは、合理性に関する解釈が問題になった。そこでは、雇われ弁護士(salaried partner)の被告がある制約条項の制限を受け、当該弁護士は離職後、5年以内に、原告の弁護士の事業所で離職前の3年間のそこの顧客を引き抜いてはならないという制限条項である。

契約条項は、判例法理に基づいて書かれている場合がこのケースのようにある。このような制限条項は、過去の判例法理:Bridge v Deacons (1984) 1 AC 705の字句に基づいている。これは、資本家と労働者の対立ではなく、ビジネスパートナー、事業主同士の争い、つまり資本家同士、企業同士としての弁護士間の紛争であり、労使関係としての弁護士間の紛争とは異質であると明確に区別される。

このKao Lee & Yip v Edwards (1993) 1 HKC 314.CAの紛争は、企業同士としての弁護士間の紛争ではなく、労使関係としての弁護士間の紛争(unequal bargening power)であり、その制限条項が離職後5年も制約しており、長すぎる上に、その地理的範囲が地球全体という広範過ぎる不合理な条項である。

ここでは、制限時間の準則は、5年や3年などの長きにわたるものではなく、被告が1年の時間があれば、以前の顧客との縁を断ち、次の顧客を獲得していくには十分であるという合理的な内容及び不均等な交渉力を考慮した判断が示された。

つまり、同業他社への転職の禁止というのは、香港では基本ない。また、制限期間を設けても日本のように2年ではなく、1年に過ぎない。生存権の侵害になるからである。合法性ではなく、この判決では合理性、および公益の概念が強く前面に出ている。

その他の考慮すべき要素

上記以外に、労働者がどのような条件を得て、その代わりに制限を受け入れるかも考慮される。

例えば、労働者の賃金が特に高いとか、雇用時に金銭供与があったとか、雇用主の特別なおもてなし、ご贔屓があったとかである。

さらに、制限条項が有効であるか考慮する場合、当該条項が労働者の生活に与える影響も考慮される。この点は、日本も同様である。当該条項が、労働者の生存権を著しく侵害し、生計を不可能にするものであれば、無効となる。

ここで注意は、表面的な字句では同じでも、背景が異なると、当該条項の有効性の有無も異なるということである。

判例法理:Rever (AMA) SALON LIMITED v KUNG WAI FOR and others (HCA 10399/2000)では、この原則が確立した。この案件では、ある高級理髪店の大部分の店員たちが、向かえの新しい理髪店に転職し、顧客も大量に奪っていった。彼らの雇用契約では、制限条項があり、店員に顧客リストを奪うことを禁止し、1年以内は、4分の3マイル(1マイルは1609メートル)以内で同類の仕事に従事することを禁止したが、これは有効との合理的判決が出た。

課題

香港の労働者階級は、残業代法制を伴う8時間標準時間制と勤務インターバル制の二つを確立することや、そもそも労組を無力化する団体交渉権がない社会を打破するために、団体交渉権の確立が急務である。

団体交渉権がないのに、労組連合で立法議員を出して、デモや集会をするだけでは全く個別の問題の解決になっていない。労組のストライキ権はあるが、肝心の強制力ある団体交渉権がない

すべての香港の判例法理律政司の法例資料の以下サイトにあり、法廷も利用する最も権威あるデータである。

URL:https://www.elegislation.gov.hk

香港労働問題研究論考30章

(以下リンクより各論考へ)

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香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項

1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。

2、もし、雇用主に