香港労働 Hong Kong Labor Issues #33 日本人のための香港労働問題研究:雇用契約関係と未来社会の趨勢

Updated: Sep 12, 2020

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香港の雇用契約関係のまとめ

 

業務委託契約の労働なるものは、似非フリーランスであり、違法であるが、近年それを合法化する判例が日本でも冠婚葬祭ベルコの2018年の裁判で確立している。元来は、バブル崩壊以降の映像業界の常態化した手口だったものが、果ては労働者を全て業務委託化するという個別雇用契約の労働者性の問題だけでなく、細分化され外部委託先会社の体裁を保ち業務委託契約を結び、本来の企業内部門や同一企業内店舗であるものを外部委託として扱う方法が確立している。これにより、個別の労働者性を争う問題を回避して、丸ごとその支社支店と言う名の外部委託先扱いの部門との委託契約を解除して、労働法制の責任を負わない集団解雇を可能にしている。


ここでの問題は、単に個別の業務委託契約としての労働の労働者性の問題だけを見るのは、森を見て気を見ないことになる。さらに全体としては、本来の同一企業内の部門と外部委託契約をして労働者たちの所属する部門全体を業務委託にする多重契約で、本社責任を分断し、また全て業務委託で繋がっているので集団解雇も労働法制上の責任を回避できる手口である。つまり、個別の業務委託労働なる問題だけでなく、同時に全体としては企業内関係の偽装の問題を孕んでいる。これが、判例法理として成立しており、安倍政権はこの様な従来の組織形態と雇用形態を否定する雇用形態である業務委託労働を拡大させる趨勢である。この未来社会は、労働者階級が法制上存在せず、全てフリーランスの社会になる。実質的には、彼らは労働者であるにも関わらずにである。これは、労働法制及び福利制度を葬る事である。


1.連続性の契約



まず香港の雇用契約の基本形、標準となる雇用形態は連続性の契約のものだけである。これは、継続性の契約であるが、無期、有期正社員として法的に規定されていない。しかし、日本の労働法制では労働者として正規も非正規も法律自体では同じとして扱われる体裁がある。


ここでは、労働法制の保障の該当範囲となる雇用契約が規定されていることから、ここに該当しない雇用契約が排除される。この点にも、業務委託契約と同質の無保障状態が広がっており、つまりパートタイムが実際的には業務委託労働なる似非フリーランスとほとんど同質の劣悪労働になるのである。


似非フリーランス契約だけが、似非フリーランスの手口の範疇に該当しているわけではない事は見落とされている。なんらこの点の法的な保障をと言う声はないのが不思議。


連続性の契約という概念は、香港の労働法制の基本概念である。この定義は、労働者が同一の雇用主の為に連続して4週間、毎週18時間以上勤務する者であれば、それは連続性の契約と認定される。これにより、初めて、雇用条例(香港法第57条)の保障対象になる。


これを、418ルールと言う。従ってパートタイムは、業務委託労働なる似非フリーランスのものと同質になる。フルタイムやパーマネントは、基本的選択肢である。この418以下にも存在する業務委託労働なるものを規制する事は、似非フリーランス撲滅と不可分である。雇用契約が、業務委託契約でなくても、418以下では業務委託労働契約なるものと同質になる。


2.雇用契約の終了


1、予告期間か予告手当


上記の連続性の契約に符合すれば、雇用主が労働者を解雇する時に予告期間を与えるか予告手当を支払う必要がある。香港では、この予告手当を払う義務が被雇用者の側からの雇用関係終了の場合にも必要だが、労働者側の場合は払わなくても罰則はない。従って、香港の人事部の連中は、一筆書かせて縛ろうとするが、労働者側は拒否していい。


この処理方法は、a)もし両者が雇用契約で特定の通知期間を規定していない、明記していない場合は、予告期間や予告手当は一ヶ月以上でなくてはならない。b)もし両者が雇用契約で特定の通知期間を規定しており、明記している場合は、予告期間や予告手当は1週間以上でなくてはならない。規模に限らずこの最低基準にしている企業が多い。


2、試用期間内で雇用関係を終了


もし両者が雇用契約で特定の試用期間を規定しており、明記している場合は、予告期間や予告手当は以下でなくてはならない。


a) 試用期間の最初の一ヶ月目は、お互いに予告期間や予告手当は不要。即時解除できる。

b) 試用期間満一ヶ月以降は、全て両者が明記した予告期間や予告手当で契約を解除する。しかし、その際も1週間以上でなくてはならない。もし、何も明記していない場合は、1週間以上であればこれまたいいとされる。つまり、試用期間なしのみが一ヶ月の法定の要求になる。それ以外は、1週間しかない。


3、有給年休と雇用関係終了


雇用主が雇用関係を終了する際に、労働者が未消化の年休は解雇予告期間に含めてはならない。しかし、雇用主はその分の金銭を支払い年休に代替できる。



4、分娩休暇と雇用関係の終了


分娩休暇は、例外なく雇用関係終了の予告期間に含めることが出来ない。


5、即時解雇出来て、法的な補償が不要な場合


(1)雇用主側:労働者が被雇用者の間の期間(雇用条例第9条)これは、日本の懲戒解雇の場合である。即時解雇とは、懲戒解雇の場合のそれであり、予告手当を支払う事で即時解雇に等しい状態になる場合は外観はともかく、本質的に違う。


a) 故意に合法的且つ合理的な命令に従わない。

b)不当行為:正当且つ忠実に職責を履行する原則に反する。

c)詐欺や不忠実な行為

d)よく職責を怠る。

e)雇用主がその他の理由で、一般法の権限で予告期間を与えずに契約を解除できる場合。


全く、曖昧で、どうにでも解釈できる余地がある。本来は、この部分の明文化は労組が反対していたものである。解雇への心理的、社会的な圧力は、それを困難にする社会的な労働者運動の圧力の存在やその利益に適う判決が多く蓄積されている場合に形成される観念である。そして、それは団交や裁判で争う以外にないものである。


もし、労働者が労組のストライキに参加する場合、雇用主が予告期間や予告手当を与えずに解雇できる理由にならない。これは、法改正の賜物である。


注意:即時解雇は、日本の懲戒解雇に当る。香港では刑事的な立証責任が雇用主に問われる。最も厳重な規律処分であり、労働者が非常に重大な過失や何度も警告(文書)を出しても改善がない場合に適用される。ここでは、警告が文書で正式に出されているか争う余地がある。


(2)労働者側:雇用条例第10条 ここでは、契約無効とは別に、無償で即時労働契約解除のできる状況が規定されている。この曖昧規定は、雇用開始時に限定されない、その後の状況でも適用できる。根拠の一つにはできる。


a) 暴力や感染、傷害の危険性がある場合。

b) 雇用主による酷い待遇を受ける。

c)同一の雇用主で5年以上働き、登録している西洋医学の医者による診断書で永久にその仕事に適さない場合。

e)労働者がその他の理由で、一般法の権限で予告期間を与えずに契約を解除できる場合。


ここでは、平等の様な体裁が取られているが、日本と違い労働者側にも予告手当が義務付けられているので、不利である上に、社会的に雇用契約解除は労働者側に不利にしか働かない。大人の責任は、他人の労働に対してもこの様な社会的責任を認識する所にある。この点が麻痺している者が多すぎる。


3.業務委託の労働者?雇用関係と請負関係


政府だけでなく、建設業、製衣業など、多くの香港の業界で業務委託は広がっている。この比率の増加が、労働者を業務委託する形で失業率の減少を演出しているが、香港の実相を反映する貧困率は増加の一途である。本来、失業率の低下は、貧困率の低下である場合に真である。実際は、真逆の現象が起きている。


幾つかの工程で、請負関係が存在しているが、工場、工業の工程に限定して考えない方がいい。この業務請負は、本来は企業が単位であるはずだが、労働者を業務請負の単位にする問題のフリーランス労働なるものが生み出されているので、この二つの単位は一体化して、手口の中で責任逃れの為に応用される。手口の上では、業務委託の企業と業務委託の労働者は同じ扱いで、業務委託である。


この業務委託の請負人は、包頭とか、判頭と呼ばれるが、企業単位と実質労働者単位の二つがある。彼らの身分は、彼らに雇用される労働者達と異なる身分である。彼らにさらに業務委託で雇われる所にさらに問題が生じる。


彼らは、独立して商売を営む者であり、労働者ではない。就業率には反映されないし、失業率にも反映されない存在である。つまり、業務委託では雇用条例の保障はない。そして、労災の申請は一切できない。


この元々事業を請け負う者が誰か特定ができなくなる問題が香港で典型である。それは、まずある兄弟チーム(兄弟班)として各労働者の前に現れるが、ある工程を請負処理する時は、皆で従事するが、一旦労働問題が発生すると、誰が責任を取るのか分からなくなる問題が起きる。責任のある元々の請負人に遡るのが困難になる。これは、多重派遣時の責任所在の不明の問題に類似している。


この業務委託か、労働者かの問題は、必然的に似非業務委託のフリーランス労働の問題と不可分である。業務委託の請負人にこれまた労働者として雇用されるのか、業務委託の労働として使用されるのかの分別が必須である。基本的な雇用形態の判別が必須になるのだ。


よく使われる語である外判とは、外部委託、アウトソーシングである。委託とは上記の請負である。その請負が業務委託関係か、雇用関係かの判別を必要とされるケースが多すぎるのである。請負人自体も実質労働者で、本当の請負人に該当する企業が他に指揮命令を与えているケースがある。


請負関係か、雇用関係か?


裁判所は、多くの要素を判断する。請負契約をしたから、請負関係になるとは限らない。法廷は、請負人が実質的に独立して事業を営んでいるか、あるいは雇用されているのかなどを問う。


幾つか、請負関係か雇用関係かの判別の指標がある。


1、雇用主と呼ばれる者が、その被雇用者と呼ばれるものの仕事に対して、雇用主としてあるべき支配・指揮権があるか?

2、被雇用者と呼ばれる者が、仕事に必要な道具を自ら有しているか?

3、被雇用者と呼ばれる者が、財政上のリスクを負う必要があるのか?またその程度や性質はどうなのか?

4、被雇用者と呼ばれる者が、自ら必要な労働者を雇っているか?

5、被雇用者と呼ばれる者が、その優秀な管理から利潤を得ているか?

6、被雇用者と呼ばれる者が、投資や管理の責任を負い、またその性質や程度はどうか?

7、被雇用者と呼ばれる者が、正確にその雇用主とされるものの商業組織の一員として判別されるものなのか?

8、被雇用者と呼ばれる者が、その方面の営利を営んでいるか?

9、雇用主と呼ばれる者が、その被雇用者と呼ばれる者について、保険や税務の責任を負っているか?

10、双方のこの関係に対する考えは?

11、この業界や専門の伝統的な構造や慣例に理解があるか?


請負人の責任:


請負人は、もし労働者を雇えば、雇用主である。雇用主は、雇用条例の中の労働者の各種福利や保障、例えば、有給休暇、医療手当、長期服務金等に責任を持ち、ある工程の請負をする場合、契約では内容や自身の身分を明記しなければ、契約後、雇用条例の全ての保障責任を一身に背負うはずが、問題発生時に逃げ出す事になる。香港でも最も不安定な雇用形態、問題の請負労働なるものを生み出している土壌がこの責任逃れなのである。搾取と責任逃れの手口に他ならない。


冠婚葬祭ベルコの業務委託問題と香港外判問題の比較


従来の個別の実質労働者と締結される業務委託契約の問題だけでなく、従来の各部門、店舗、支社、本社とが全て業務委託契約になって企業内関係が偽装されている。図:情報労連 
各個人、部門、店舗、支社、本社とが全て業務委託契約。図:情報労連 

個人請負、個人事業主、業務委託、請負業務、請負契約、フリーランスという契約形態は、往々にして実質的な労働者を労働法政の枠外に置く究極の搾取の形態である。そして、その契約は会社と会社に等しいし、会社と個人なのに、会社と会社の間でも業務委託契約でアウトソーシングとなり、会社の実質的な従業員なのに、業務委託契約で会社と個人事業主のアウトソーシングの関係になる。


この脱法形態は、マルクスもレーニンも想像もしていない資本主義の雇用問題の発展形態であり、人間の労働主体で考えられるその極端である。資本主義のこの領域の最終的な発展は、人工頭脳やアンドロイドで人間労働が葬られる段階だが、その前段階としては、もう限界点に到達しているのが見える。発展の可能性を出し尽くさない限り衰退しないのが社会である。


この冠婚葬祭大手のベルコは、ネオリベの最悪の搾取形態を全て総合した搾取と脱法の教科書の様な経営、雇用方式を採用して、不当解雇の裁判で解雇した二名の労働者に昨年末勝訴して危機的な社会問題になっている。


労働組合の結成を理由に解雇されたとして、ベルコの北海道内の代理店で働いていた元従業員二人が、同社に解雇撤回を求め札幌地方裁判所で係争中だ。この裁判や並行して進む北海道労働委員会の審理の中で明らかとなったのが、同社の徹底した「業務委託契約」の活用だ。(1)                     


これまでは多くが、個別の実質労働者と本来の雇用主との業務委託契約によるフリーランス労働なる違法形態が焦点であるが、ここに来てこれは木を見て森を見ない誤りだと分かった。なんと、そうした業務委託労働者の所属する店舗ごとと業務委託契約を本社が締結する事で、企業内関係を隠蔽し、その店舗ごと解雇する事でも、労働法制上の責任を一切負わずに解雇する手段を発展させている。


これは、労働法制だけでなく、会社法の問題にも跨出で入る。つまり、労働法としては隠蔽された実質的な雇用関係が問題になる。そして、会社法的には隠蔽された企業内関係が問題になる。


ベルコは、7千人の業務委託労働者は、単なる実質労働者というに留まらず、ここではマルチレベルマーケティング方式が応用され、保険会社の外交員方式やマルチ商法の代理店・ディストリビューター方式が運用されているので、その営業マンたちはマルチ商法の会員・ディストリビューターと同質である。そこでは、前もって受け取る掛け金を元手に、葬儀や結婚式などのサービスを提供する全国の「冠婚葬祭互助会」(互助会)とこの様なディストリビューター的な会員契約を結ぶ形態で、単なる一般的なシングルレベルマーケティングである小売業の店舗スタッフ形態ではない。


ベルコが昨年7月、監督官庁の経済産業省に提出した報告書によれば、全従業員7128人のうち、正社員はたった32人。残る7000人超は同社と直接に業務委託契約書を取り交わすか、取り交わした代理店主(支部長)と雇用契約を結んでいる。ただ原告側によれば、代理店主といっても名ばかりで、雇用される側も実態は業務委託と何ら変わらないという。(2)


マルチ商法では、一般リテールの会員制とは違い、自分の下にさらに契約をする会員を増やしてグループ形成していく事でボーナスと言われる手数料が入る。業務委託は、さらに際限なく業務委託契約ができ、それを増やしていることができる。ここでは、マルチ商法の会員があくまで個人事業主であり且つ消費者であり、会社側の営業は別で正社員スタッフが雇われていて、会員たちは会社に属していないのに対し、ベルコの業務委託労働者達はその境界線をなくしている。ハイブリッドになっている。ベルコの会員数は約2400万人と言う。全国シェアの半分を占める大企業である。業務委託の人数、量が質を変える。


同社の内部資料では、業務委託の対象となっているのは、互助会の会員募集を行う営業職にとどまらない。葬祭関連だと葬祭所長やホールの館長から施行スタッフまで、冠婚関連でも結婚式場の支配人からフロント担当者まで、すべて業務委託契約を結ぶことになっている。

それは間接部門の各地の支社でも同様だ。管理職であるはずの支社長や支社長代理、さらに現場の経理や消費者相談室のスタッフまで、一様に業務委託契約を結んでいる。(3)


これは、代理店の管理職だけでなく、その営業職員から全てが業務委託契約という事になる。上記の情報労連の表は、労働契約は、実質的な労働契約という主張に沿って掲載されている。実は、マルチ商法の会員契約も全てが業務委託、フリーランス契約状態である。ボーナスの支払いをするのだから業務委託の一種である。彼らの営利活動は会社との規約に基づいて行われるので、会社の実質的な営業マンである。この性質が全てを貫いている。


個人請負・フリーランスの実質労働は、残業代、最低賃金、有給休暇、解雇権濫用法理(解雇制限規定)、団体交渉権、医療保険としては、会社と折半する健康保険がない。雇用保険も労災保険(個人加入可)もない。あるのは、自主的に加入する全額負担の国民保険ぐらいしかない。また法律上は労働者ではないから、就業も失業もない。事業主という社会的な扱いになる。これは、労働者性の証明が労基法上の権利主張に必要になるが、困難なのは健康保険への遡及しての加入であるが、これは裁判で勝ち取るしかない。


労働法規を潜脱する目的の手口


これに対して訴訟を提起した元従業員は、「実際は頑張って長く働くほど収入が不安定になりかねない」という。(4)