香港労働 Hong Kong Labor Issues #5 日本人のための香港労働問題研究:即時解雇(懲戒解雇)の規定

Updated: Jan 24

#香港労働法 #日本人 #HongKong #Labor #Issues

雇傭条例第9条では、資本家は通知予告もしくは解雇予告手当なしで即時に雇傭契約を解除する権利が保障されている。これは、日本の労基法でいう懲戒解雇そのものである。外観上即時という意味ではなく、一切の補償がない即時発効する懲戒解雇なのである。そして、労働者側にも即時契約破棄する権利が認められている。双方向性の法的体裁はある。ここでは、その第1項が法廷では合法性よりも、合理的か否かが争う可能性が高いものであることを強調する。雇傭主の命令が合法的でかつ合理的であるか否かがまず重要ポイントになる。


雇傭条例第9条

9.

Termination of contract without notice by employer

(1)

An employer may terminate a contract of employment without notice or payment in lieu—

(Amended 51 of 2000 s. 2)

(a)

if an employee, in relation to his employment—

(i)

wilfully disobeys a lawful and reasonable order;

(ii)

misconducts himself, such conduct being inconsistent with the due and faithful discharge of his duties;

(iii)

is guilty of fraud or dishonesty; or

(iv)

is habitually neglectful in his duties; or

(b)

on any other ground on which he would be entitled to terminate the contract without notice at common law.

(2)

The fact that an employee takes part in a strike does not entitle his employer to terminate under subsection (1) the employee’s contract of employment.

(Added 51 of 2000 s. 2)

また労働者が故意に合理的かつ合法的命令に従わないことと、行為が不当であることは混同されてはならない。この合理性が争われるのは、例えば配属転換においてであり、契約上配属転換に合意していても、その配属先、交通手当、労働者の職位、居住地、労働者が配属転換、異動を望まない理由などが、合理性判断において争う余地がある。

即時解雇(懲戒解雇)になる行為とは、香港においても重大な過失であり、それは最も基本的な雇用関係に違反する行為であるが、実際いかに過失の重大さを判断するかは、異なる角度観点により、判断結果が異なる。そのため、これは紛争になりうるし、労働者側は争う姿勢を貫くべきである。雇用主側の主張に従う必要は全くない。

判例法理:Garlitz Investment Limited v Hui Lai Ping (LTA 79/1996)

過失の累積効果という判例法理が確定している。これは、一つ一つの労働者の過失(遅刻、騒擾、勤務中に雑誌閲覧など)に対する各警告文(口頭ではなく、文書である必要があるが、香港では口頭が多いので、この点が争える)では、即時解雇に不足であるが、その累積効果を法廷は考慮し、このケースでは13年も勤務したベテラン、シニアスタッフの即時解雇を法廷が認めている。この場合、警告は口頭であるケースが多く争いに発展している。日本と違い、指導や勧告ではなく、正式な警告文である必要がある。労働者側は、警告の形式に関しても、指揮命令の合理性、合法性に関しても紛争による解決の可能性を保持するべきである。

判例法理:Lau Pui Sang v Maxim's Caterers Limited (HCLA 81/2005)

また、上記第3条項にある詐欺、不忠実な行為とは何か?違法な収賄を授受したり、会社の財物を盗取するような重大で不誠実な行為の場合に即時解雇が妥当と法廷が判断する。

しかし、会社の一枚の紙を拝借したり、会社のファックスを密かに使ったぐらいではこれには該当しないと判断されている。

さらには、この即時解雇(懲戒解雇)では刑事的な証明責任も資本家側に要求される。

また、この判例では契約書や就業規則での、兼業副業禁止規定、転職制限規定で、他の事業である水飴の販売事業を労働者が営んでいることが発覚し、即時解雇にした中国レストランは敗訴している。ここでは、同一事業ではなく、他業種であることが重点であり、その労働契約にも違反してはいないという判決が下された。

つまり、同業、競合事業でない限り、労働者が他の業種の事業を営むことは即時解雇の法的根拠にはならない。

判例法理:Lam Tze Ying and others v Maria College (HCLA 136/ 1996)

第4項にある慣習的に職責を疎かにするとは、例えば、ドライバー職がよく不注意で事故を起こすような行為を指す。

上記の判例では、学生による教師及び授業に関するアンケート結果がいかに低くても、それを重大な過失として即時解雇することを違法としている。また、教師の学生に対する管理能力の無さを即時解雇の理由にできないことも確定している。

つまり、パフォーマンスが評定より低いことは即時解雇の理由にはならない。

労働者の能力が不足している場合は、雇用主はトレーニングをした上で、もし目標に達しないのであれば、通知もしくは、解雇予告手当により雇用関係を終了し、金銭解雇、普通解雇することができる。しかしこのトレーニングなるものがそもそも役に立つものではなく、普通解雇の形式的な手続きとして香港のマネージメントは悪用するので要注意がいる。これを慣習的な職務怠慢で即時解雇の理由にすることはできないし、該当もしない。

結論

香港の即時解雇は、日本でいう懲戒解雇である。翻訳では、懲戒解雇と言うのが妥当である。

労働者は、あくまで業務命令が合法的かつ合理的であるか警告が書面で出されているか、兼業副業をする場合も本職と同業で競合関係になるか否か、学生、顧客の評定が即時解雇の理由にはならないことなどに留意し、あくまで争う姿勢を貫くことが交渉を進める上で有利である。

日本でも香港でも抽象的な理由、例えば、ただパフォーマンスが悪いとか、就業規則何条何項の事由とかしか解雇通知書には示されないし、抽象的な理由では不十分である点は共通している。具体的な証明は、日本では労働基準法第22条2項で前者の抽象的な提示ではなく、具体的な事実証明を要求する権利がある。これは、その後の交渉材料になる。しかし、香港では解雇理由証明書だけでなく、いわゆる退職時の就業証明の要求についても法的条項がなく、裁判官に委ねられる。逆に言うと、労働斡旋や労働審判での解決に持ち込む。

退職時の就業証明書の要求方法

この就業証明書は、社員証や保険証との交換にするのが現地のやり方である。会社側が返還を要求するものに対して、こちらからの要求をするのである。この交換の機会を喪失してしまうと後で面倒くさいことになり、時間もかかってしまうので、人事部とのExit Meetingで交換できる様に連絡や要求を予めしておくのが正しい。期限を設定しても同意しなければいいし、これを受け取るまでは渡さない姿勢を貫けば良い。

その際、解雇同意書の類には資本家側の対価なくして気軽にサイン、同意しないことが有効である。また、そもそもその類にもサインする義務はない。貰うだけでいい。何でもサインを要求してくるが法的にサインするべきは契約書、契約内容の変更書、試用期間に関するレターなど契約内容に関わるものだけである。辞職届や解雇届、解雇同意書なるものや試用期間の評価シートはサイン不要、また労働者の為にサインは不利にしか働かない。

それに、日本でも香港でも解雇同意書なるものは法的根拠はない。労働者はサインする必要性は全くない。香港では、いきなり法廷になるので、その際サインやハンコを押した文書が形式的に優位にはなる。サインしなければ束縛はない。特に法的文書とは香港ではサインし、会社ならハンコを押した文書ということになり、なんでも文書で交わす。労働者側も文書を要求し、書面の記録をできるだけ保存するべきである。サインした文書はコピーを要求し、拒むならサインしないか、破棄させるべきである。社内の正式な文書を待つ前に意思表示を人事部へしておけばよりスムーズであり、担当管理職と人事部の間に楔を打ち込む事になり、直ちに会社全体の公式な立場へ転化する前に手を打つ方がいいが、いずれにせよ最終的に拒否すればいい。

香港労働問題研究論考30章

(以下リンクより各論考へ)


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