香港労働法 Hong Kong Labor Issues #39 日本人のための香港労働問題研究:障害者雇用と差別禁止条例の実際 Anti-Discrimination Ordinances
Updated: Aug 6, 2021
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四つの差別禁止条例と指針
香港では、4つの差別禁止条例があり、
『性別差別条例』CAP 480 Sex Discrimination Ordinance
『障害者差別条例』CAP 487 Disability Discrimination Ordinance
『家庭・職位差別条例』CAP 527 FAMILY STATUS DISCRIMINATION ORDINANCE
『人種差別条例』CAP 602 RACE DISCRIMINATION ORDINANCE
さらにそれらを基に、平等機会委員会EOCが『雇用実務指針』(僱傭實務守則)を提供している。主旨は、性別、婚姻状況、妊娠、セクシャルハラスメント、障害、家庭及び職位、さらに人種に関する差別、中傷、他者に損害をもたらす行為を香港の社会からなくし、一般人が一般的状況で平等に扱われる事にある。パワハラ条例がない。香港にパワハラがないわけではない。
当該指針は、もちろん条例の運用に関しての指針を示していて、それら4つの差別禁止条例が、いかに雇用及び労資関係の範疇において適用され、双方が履行しなければならない義務を示している。したがって、労働者及び人事部の双方がこれらについて無知である状況は、労働者にとって不利でしかない。
また、見落としてはならない点は、法律はあくまで条例であり、指針、マナーは法律ではないと言う香港的な社会問題解決における落とし穴にある。指針は、裁判では参考にしかならない。強制力がない。つまり、条例にないものは、法例になければ、存在しないので、他国では違法でも、合法状態になってしまうのが、法律の現実である。
次に各種条例の雇用におけるそれら指針をさらに概括する。この平等機会委員会は、警察権を持っていないので、各種苦情に対して任意の調査と調停ぐらいでここでも法定機関といえども企業にとっては脅威にならない程度の苦情処理機関としか認識されていない。無力と言わざるを得ないのは、凄まじい差別の事件の手口の質と量が物語っている。
行政手段は、まず使い尽くして、差別問題としての労働問題を解決する試みは日本でも共通した必須の過程だが、香港では複合的な社会的手段を行使しないと単独の手段だけで十分な解決というのは困難なのが現実である。次に司法手段がある。さらにそのハードルの向こうに立法手段がある。残念ながら、香港では団交という手段は存在しない。本当の労組は存在していないからである。しかし、労働組織、社会団体を通じた立法委員からの抗議という手段はある。
1、『性別差別条例雇用実務指針』Code of Practice on Employment under the Sex Discrimination Ordinance
適用範囲は、もちろん男女、年齢差別は含まれない欠陥がある。雇用の範疇で、性別、婚姻状況、妊娠などに関して、直接間接の差別をし、セクシャルハラスメント及び他者に損害を与える行為をすれば、『性別差別条例』に違反する可能性がある事を示す。あくまで、可能性であり、警察権を有していない機関が直接何かをして取り締まるわけではない。
2、『障害者差別条例雇用実務指針』Code(s) of Practice under the Ordinance
雇用の範疇で、障害者に偏見を持ち、差別をし、嫌がらせ及び他者に損害を与える行為をすれば、『障害者差別条例』に違反する可能性がある事を示す。
3、『家庭・職位差別条例雇用実務指針』Code(s) of Practice under the Ordinance
雇用の範疇で、労働者の家庭、職位に対して偏見を持ち、直接間接の差別をし、他者に損害を与える行為をすれば、『家庭・職位差別条例』に違反する可能性がある事を示す。
4、『人種差別条例雇用実務指針』Code(s) of Practice under the Ordinance
雇用の範疇で、労働者の種族、皮膚の色、家系、民族、人種に対して偏見を持ち、直接間接の差別をし、他者に損害を与える行為をすれば、『人種差別条例』に違反する可能性がある事を示す。
最大の欠陥の一つは、国籍差別はこの差別に該当しないとされている事である。また、ビザの種類に関する差別もそれに伴い差別に該当しないとされているが、正に生存権に関わる差別であるだけでなく、これら条例がザル法に過ぎないことも物語っている。もちろん、反日はこの人種差別に当たるとしても歴史的にこの法制で反日が差別問題として認識されていないのも現実。この類の案件は未だ皆無である。
本当の差別は合法の体裁脈絡で行われている
差別というものは、実際の人事部の運用面において、こうした違法な形態、体裁を直にもちろん採らないで、他の合法な体裁、果ては本人に認識されない所で行う差別というのが社会の現実の手口である。つまり、この4種類の差別は、他の体裁、包装、偽装、口実、脈絡、手段、構造、規定により合法的に行われているだけである。それらを暴くことが、労働者の各自の課題になる。
雇用の範疇というが、文言とは矛盾して、果ては文言なしで行為における差別という手口もある。さらに雇用の範疇は、香港でも聖域になっていて、労働者の保護がなきに等しいので、そこでの差別の解消というのは合法性のコンテクストの下で、この聖域内で差別をするのを妨げることはできていない。
また、差別とは偏見も含むが、差別的な行為を平等的なコンテクストに落とし込んでその聖域内で行うのが香港の人事部の手口である。単に文言だけであからさまな差別以上にそうした行為における差別自体が本物の差別である。またそれは、悪質なブラック企業の指標でもある。信頼関係は成立しない。
資本主義社会の法律はあくまで、企業側、ブルジョアジーによりその階級利益保護の為に制定されている本質も忘れてはならない。そこに改革、労働運動の必要性が常にある。資本主義の法制を理解するのは、他ならぬその枠内での既成の労働者階級の利害を守り、かつさらに徹底した労働者階級の利害をその上で追求する為であり、その盲従や美化肯定の為ではない。
詳細は、ここを参照。
障害者雇用の利用と助成金取得後の使い捨て
2019年11月10日、『東方日報』の報道によると、現在の日本ほど体制及び助成金制度は拡充はしていないが、障害者雇用に関して差別を撤廃して、雇用を促進するための助成金は香港でもあることが分かる。
労工處の選択就業科(展能就業科)では、障害者雇用に関する差別を排して、雇用促進の為に2018年から障害者雇用助成金を5.1万香港ドル、助成期間を8から9ヶ月に延長した。しかし、実態は、次々と障害者を雇用しては、助成期間が過ぎると解雇して、また大量に障害者を雇用して助成金を貪るという反差別とは本末転倒な状況が生じている。これは、トライアル雇用助成金を日本のブラック企業が貪るのと同じ構図であり、資本主義的な経済犯罪である。
あるソーシャルワーカー盧浩元は、障害者雇用の使い捨ては普遍的であり、彼の知る限り十人に九人の障害被雇用者は経験していると証言している。雇用主(これは、香港的な観念で、雇用主は生産関係で、ハウスキーパーのサービス利用者の類を本来含まないが、香港では資本家以外もこの観念で呼ぶ)は、雇用主は助成金手当目的で障害者を雇用し、障害者の労働力と競争力は、健全な者と比較して劣るという観念から、助成金を取得する手段としてしか見なさないと言う。
労工處が2019年に立法会に提出した報告書では、大部分の障害者の雇用契約終了の案件は、障害者本人の自己都合退職という結果を出している。しかし、香港的な資本家たちの観念は、日本と同様いわゆる常用労働者、この実際は有期契約で非正規雇用である共通性の上に、実質解雇する上で、この意図的な雇い止めを障害者本人の自己都合退職として認識、報告しているからに過ぎない。
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探射灯:雇主呃聘用津贴 残疾被用完即弃 11月10日(日) 05:00
https://hk.on.cc/hk/bkn/cnt/news/20191110/bkn-20191110050003517-1110_00822_001_cn.html
そこで、日本は理想ではないが、香港でもないよりあった方がいいのは、障害者雇用率制度、それに伴う税制優遇、それに制度的に制約された各種助成金、ジョブコーチ育成という総合的手段でなくては、単に香港の様に九ヶ月雇用分の助成金を払うだけでは、何の解決にもならない。この雇用率制度は、人種や国籍、女性などにも適用されていくのがさらに望ましい。香港の障害者雇用対策は、日本より遥かに立ち遅れている。
日本の障害者雇用対策は、ここを参照。
雇用主の一般的責任:代理人と被雇用者による上記の各種差別条例違反は、連帯責任になる事が定められている。ここで、見落とされがちなのは、雇用主は、仕事上職場で、性別、婚姻状況、障害、家庭、職位、人種等に関する差別行為を防止する義務がある。また、雇用、昇進、配置転換、訓練、解雇、リストラ、及び就業規則、雇用契約など統一した選別基準がなくてはならず、労働者、求職者が人事部に問い合わせた際には開示しなくてはならない。この統一した基準がなくては、主観的な偏見を防止できない、主観的、偏見の根拠になる。しかし、香港の企業は通常、問い合わせに故意に無視し続ける手段をとり、行政機関に苦情が入ってもとぼける手口をとるので、この点を防止する法制が別途必要である。
被雇用者側の責任は、香港では会社や行政機関への差別の苦情という事になる。特に雇用主の代理人は雇用主に等しいので、同様の義務を履行する必要がある。労働者にとって、自らがぶつかった労働問題、この様な差別問題の解決の試み、過程自体がその社会的な責任の履行という事になる。
日本や香港に関係なく、労働環境の現状というものは、常にその時間点においてそれまでの労働者世代の努力の程度、怠慢と無関心と無能の程度の産物、結果、蓄積である。
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香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項
1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。
2、もし、雇用主に解雇された場合、いかなる文書にもサインしないこと。また、何かにサインする前に、自身に不利ではないかまず内容をよく見ること。不明な点は、質問しはっきりさせ、解答が不明瞭ならばサインは拒否するべきである。つまり、理解できないものは拒否すること。下劣な香港マネージメントは手口としてあからさまな詐欺を働く場合もあり、それはサイン無効として追究する道を開く。ここで、重要なのは、サインした全ての公式、非公式の文書はコピーを要求する権利があり、コピーを渡さないならばサインしないことである。このような卑猥な資本主義の犬に屈するくらいならばサインや合意を破棄するべきである。その方が労働者の精神的利害及び社会的契約上の権利の実現と言える。日本の求人詐欺の手口は基本的に香港でも存在している。多くの多国籍企業のアジア太平洋地区の本部は香港であり、人事部が実は香港という大企業も少なくない。手口自体の共通性はここから来ている。
3、紙媒体か電子媒体かを問わず、全ての企業関連の文書を保存すること。これは、雇用契約書から、就業証明、給与支払報告書、税報告書、解雇通知書などを含み、その後労働者の受けるべき権益を要求する基礎になる。
4、実際は、社会団体であり労組ではないし、団交ができず理想形態ではないが、香港の信頼できる最大の労働組合連合である工聯会に相談すること。相談窓口は、以下の連絡先がある。傘下の労働組合も、総じて香港の労働組合に団体交渉権がないが、労働者の社会的な団結の具体的な組織形態であり、法的には労働者の団結の存在形態とは労働組合である。そして、それは現地の労働者たちの知の集積庫でもある。
電話:3652-5888
Eメール: labour@flu.org.hk
Web: http://www.ftu.org.hk/zh-hant/index.php
References
1.《勞資審裁處條例》 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!zh-Hant-HK2.
2.香港法例第57章《僱傭條例》僱傭保障Q&A http://www.labour.gov.hk/tc/faq/cap57k_whole.htm 3.勞資審裁處表格 http://www.judiciary.hk/tc/crt_services/forms/labour.htm
4.勞資審裁處條例 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!en
5.工聯會The Hong Kong Federation of Trade Union http://www.ftu.org.hk/zh-hant/rights?id=896. 6.第338章 《小額錢債審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap3387.Cap.