賃金の定義と保障
賃金の定義:賃金とは、雇用主が被雇用者に金銭計算の報酬金(残業代を含めた全ての報酬)、利子、手数料、歩合、手当(交通手当、勤労手当)、チップ、サービス料など、企業ごとのことなる奇怪な造語や一般的でない名称や如何なる種類の方式の計算によろうとも、全て賃金とみなされる。基本給と歩合制を総額給与や可能性給与で求人広告上隠蔽するのは、日本も香港も共通の求人詐欺の手口であるが、それらがどれも賃金である事を否定はできない。しかし、以下は含まない。
a.雇用主の提供する居住、食事、教育、燃料、水、電気、医療などの金銭価値。
b.雇用主の労働者の退職プランの為の供出金。
c.賞与的性質の或いは雇用主の裁量による手数料、勤労手当、勤労ボーナスの類。
d.経常的でない交通手当、如何なる交通機関利用上の特典の金銭的価値或いは、労働者が仕事上生じた交通費用の実際の支払い。
e.労働者が業務上立て替えた費用。
f.年末報酬、賞与的性質の、或いは雇用主がその裁量で払う毎年のボーナス。
g.雇用契約締結或いは雇用契約終了時に払う金銭。
ここで言う雇用契約締結時の金銭とは、いわゆる祝い金である。祝い金は香港でも存在している。また、分娩休暇の賃金、遣散費(整理解雇時の法定補償金)、長期服務金(雇用関係終了時に支払われる法定の長期勤務手当)、医療手当(疾患手当)、休日賃金、年休手当、そして予告手当は上記の賃金定義に従って計算する。
残業代法制はないが、残業代無効化規定は埋め込まれている
ただし、残業=超過労働=時間外労働が固定的な性質(固定残業代は日本だけのものではない)ではなく、一年内の同期の平均月収の20%以下ならば、賃金に含めない。残業代法制はないが、またそれが無いために残業代に対して労働者に不利な残業代ゼロの規定はこの様にある。
雇用主による労働条件説明義務
雇用主の労働者の勤務開始までに説明しなければならない労働条件は、賃金率や、超過分の賃金補償の比率、手当の有無、プロジェクトごとの報酬か、時給か、日給か、月給か年俸か或いはその他の単位の計算方法である。実は、この説明を十分にしないで、契約書を読んだからそれで改めて説明不要と言う怠惰な形で済ませるのが香港の人事部である。
基本給と手当、支払いの契約のあるものと裁量によるものの峻別が無い所にブラック企業は成立する。 手口に対する知識が、法律に対する見方を変える。欠落や曖昧化は、資本家のみを利する。
さらに、雇用主の説明義務は、労働者が契約時に、その賃金の支払い期限、期日を決めることである。もし、何も支払い期日を規定しない場合、一ヶ月を支払い期間の単位とする。
そして、もっと重要な雇用主の説明義務は、賃金の細部に如何なる変更がある場合、それが発効する前に雇用主は予め労働者に通知する必要がある。
その他、2007年7月13日以降は、予告手当や、法定休暇、年休賃金、医療手当(疾患手当)、分娩休暇の賃金や年末報酬を計算する際は、指定日時前の十二ヶ月の平均賃金で上記の法定の権益を計算する。
各法定権益ごとに、指定日時の概念が以下の様に異なっている。
休暇賃金:休暇日数が、1日なら法定休日当日で計算し、連続して1日以上ならこれも法定休日当日で計算する。
年休賃金:休暇日数が、1日なら年休当日、連続して1日以上ならこれも年休当日で計算する。そして、契約終了で、未消化の日数のある場合は、指定日時が契約終了の日になる。
医療手当(疾患手当):1日なら、病気休暇当日、連続して1日以上ならこれも病気休暇当日になる。
産休及び(父親)育児休暇の賃金:連続して1日以上なら、産休及び父親育児休暇の最初の日。
年末報酬:指定日時は、支払い期限日。
予告手当:契約終了を通知した日。もし、事前に通知を出していない場合は、雇用契約終了の日。
平均賃金を計算するとき、計算に入れない期間と賃金を除外する必要がある。
1、雇用条例で列挙する休息日、法定休暇、年休、分娩休暇、シックリーブ(sick leave)
の類。
2、雇用補償条例で列挙する労災のシックリーブ(sick leave)。
3、雇用主同意の休暇。
さらには、正常な仕事日で雇用主から仕事を与えられない場合もこれに該当。もし、労働者が上記の休暇期間に、何も賃金を支払われない場合は、平均賃金の計算からそれらを除外する。
そして、雇用契約が2007年7月13日以前に成立している場合、上記の事柄は以下の状況にも適用される。
1、雇用主が、ある賃金支払い期間に、産休手当や、医療手当、休日賃金、年休賃金などを与え、その支払い期間の最後の日の当該法規の発効日当日かその後にそれらの賃金を支払う必要がある。
2、雇用主が、年休の賃金を部分または全部を当該法規の発効日当日かその後に期日通り支払う。
3、契約で雇用を終了する場合、法定権益を計算する必要があるが、当該契約の終了日は当該法規の発効日当日かその後。
賃金の支払い
雇用主は、雇用契約終了日から計算して7日以内に賃金を支払わなくてはならない。もし、雇用主が支払い能力がなく、継続して雇用をする場合は違法である。また、労働者が一ヶ月以上賃金を支払われない場合は、雇用主に解雇されたとみなし、雇用主は、労働者に解雇予告手当とその他の解雇補償を支払う必要がある。
賃金控除
雇用主は以下の状況で賃金控除ができる。
1、労働者が欠勤(半日、1日)した場合、ただし、実際の欠勤時間の控除に限る。
2、労働者が雇用主の器物や商品を損壊、遺失した場合、毎回その価値に応じて控除できるが、上限は三百香港ドル。
3、労働者が予め賃金を取得した分か、雇用主が多めに払った分をその額分控除できるが、労働者の賃金の4分の1を超えてはならない。
4、雇用主が提供した食事や宿泊費用は、額面通り控除できる。
5、雇用主が、労働者に代わり支払っていた退職金、公的積立金、貯蓄プランへの供出分。(MPFと長期勤務手当の相殺問題を参考)
6、雇用主が労働者の書面の同意に基づいて貸与した金額を控除できる。
7、法令による規定や権限による賃金控除。
8、裁判所は、利息分の没収の為に、労働者の賃金から未払いの養育費を控除できる。
雇用主は、1から7までを優先的に控除した後に8を控除できる。
最低賃金
最低賃金条例は、2011年5月1日から施行されている。成立の目的は労働者の低賃金下の待遇の改善であり、生活の維持の為の賃金額を保障することである。2019年5月1日現在の最低賃金額は時給37.5HKDの計算である。
もし、雇用主が最低賃金を支払わないで下回る場合は、別途不足分を支払わなければならない。
この最低賃金条例は、雇用条例とは別の条例であり、連続性の雇用契約を結んでいるいないに限らず全ての労働者に適用される。ただし、ここでも適用除外が規定されている。
1、所謂居住権を有していない住み込みのホームヘルパーである。
2、実習生、および目下学生雇用期間を免除された学生。
最低賃金の計算方法
1、当該賃金支払い期間の最低賃金の水準はどうであるか?
法定最低賃金額に当該勤務期間の総仕事量をかけて、次に、本来の当該期間に支払うべき最低賃金総額を出す為に、当該月給から仕事時間以外で支払いを受けた賃金額を引いて、もし、後者が前者より多い場合、最低賃金水準は守られていると言える。
ここで、控除した仕事時間以外の支払い分とは、法定休日手当、年休手当、休息日手当、産休手当、医療手当などの上記説明済みの類である。
労働時間とは何か?
日本と同様の概念で、仕事時間である。労働者が雇用契約に基づいて、雇用主の指示で、ある就業場所で勤務する時間である。しかし、この場合、その際に仕事を与えられるか、トレーニングを受けるかは問わない。また、勤務時間中に交通移動に要した時間も含まれるが、自宅と勤務先の間の交通移動時間は含まない。つまり、出勤退社して勤務先と自宅の行き来の時間を労働時間に含めない。ただし、香港以外の通常とは異なる就労場所への交通移動時間は労働時間に含まれる。
労働時間は以下により規定される。
1、雇用契約で、もしくは雇用主と協議で決めた労働者の労働時間。
2、雇用主が同意した又は、指示した正常な勤務時間及び残業時間。
3、雇用主が同意あるいは、指示した状態での仕事の理由で就業場所で過ごす食事を摂る休憩時間。
賃金計算
原則上は、最低賃金条例と雇用条例の賃金定義は同一である。しかし、ある賃金支払い期間の賃金計算をする場合は以下に留意がいる。
1、労働者が、実際労働をしないが支払いが行われた賃金を必ず支払うべき賃金額とみなして計算しない。
2、雇用条例が規定する賃金控除は、賃金が支払われるべき当該期間で計算する。
3、賃金を予め支払ったり、多く支払った分は、当該期間に支払われるべき賃金に入れて計算しない。
4、賃金支払い期間で、それより以前の支払期間で未払い分を支払う場合は、当該期間に支払われるべき賃金に入れて計算しない。
5、労働者の同意で、賃金支払期間の最初の1週間、そして当該期間後の第7日目終了前に支払った手数料は当該期間の支払賃金とみなす。
労働時間記録の保存義務
最低賃金条例は、全ての労働者に適用され、もし労働者が当該賃金支払期間に対して払われた金額が、1万5千3百香港ドル(2019年5月1日現在)より低い場合、雇用主は、当該期間の総労働時間の記録を保存しなければならない。これ以上に関しては、記録保存の義務は雇用主側になく、雇用条例にもいかなる方法で記録するべきか、如何なる格式の文書にするべきかの規定が欠如している。また、これは当然であるが、記録保存義務の賃金上限は、最低賃金の基準とは別次元のものである。
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《最低工資條例》(第608章)備存總工作時數紀錄
年末報酬
適用範囲:雇用契約上の規定の有無を見る。もし、書面契約がなければ、上司の口頭でも可能。但し、もし不明瞭で話で明示していない場合は、その業界の慣例や会社の慣例を見る。この概念は、契約で支払いを確約するものを指し、雇用主の裁量で贈与する賞与的性質のものは含まない。日本は、この点が曖昧で、裁量性質ものが一般的。
金額:
1、雇用契約上明示した金額。
2、もし金額規定がなければ、支払い期日前の十二ヶ月の毎月の平均賃金。
3、残業代を含まずに計算する。
資格:
1、勤務が一つの支払い対象期間を満了した場合。
2、連続性の契約で、三ヶ月勤務満了した後引き続き勤務したか、もしくは解雇されたら、比例に応じて取得できる。
ダブルペイを阻む試用期間
もし、雇用契約で試用期間が明記されている場合、労働者がダブルペイの対象になるか否かは、試用期間を含まない。試用期間は、協議して決めた期間か、三ヶ月を単位とする期間である。ここでは短い方を基準にする。ここでも試用期間の際限のない延長という手口が香港で存在している事に留意がいる。
又例え、試用期間を設定していなくても、雇用が三ヶ月以上の法的要求は変わらない。そして、雇用主は、比例に応じてダブルペイの金額を決める際は、試用期間を含めた雇用期間全体で計算する。
受領日時:
1、雇用契約上明記した日時。
2、もし指定日がなければ、支払い対象期間の最終日になる。この支払い対象期間は、雇用契約で定めたものであり、その期間以降の7日後までに支払わなければならない。もし、支払い対象期間自体が指定されていなければ、一つの農暦年度になる。
注意:1997年6月27日以降(中国返還後)成立の雇用契約は、契約条項に正反対の規定がなければ、毎年労働者に支払われる年末報酬は、賞与的性質ではなく、又雇用主の裁量で支払われるものともみなされない。しかし、留意すべきは、その支払い対象期間で辞職したり、雇用主に雇用条例第9条で即時解雇されたりした場合は、年末報酬を受領できない。
休息日
資格:連続性の契約で雇用された者は全て、毎週1日の休息日を得られる。この法定休日がどの日かを明確にする必要性は日本も香港も共通である。
性質:
1、固定制
2、シフト制・非固定制:シフト制の場合、雇用主は毎月の開始前に口頭や、書面や、掲示により当該月の休息日をアレンジする。
休日変更の条件:
1、労働者が同意
2、工場の器具、設備損壊や更新が必要な時。
3、その他の予測できない緊急時の際。
ここでも、休日変更の際限のない繰り返しという手口が存在している。法定休日の変更か否かもポイントになるが、基本的に同意できないものは拒否の意思を人事部及び部門の管理職に明示するべきである。ここでも曖昧さは、労働者側に不利である。
変更後の休日のアレンジ:その月の元の休息日前か、その後の30日以内に代わりの休息日を与える。
賃金:雇用条例は現在、この法定の休息日が有給か無給かを規定していない。これは、個別の雇用契約による。
その他:もし雇用契約で、労働者が法定休息日に勤務してはじめて年末報酬を全体か部分獲得できると規定していたら、その様な規定はブラック企業の表徴であり、無効である。
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香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項
1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。
2、もし、雇用主に解雇された場合、いかなる文書にもサインしないこと。また、何かにサインする前に、自身に不利ではないかまず内容をよく見ること。不明な点は、質問しはっきりさせ、解答が不明瞭ならばサインは拒否するべきである。つまり、理解できないものは拒否すること。下劣な香港マネージメントは手口としてあからさまな詐欺を働く場合もあり、それはサイン無効として追究する道を開く。ここで、重要なのは、サインした全ての公式、非公式の文書はコピーを要求する権利があり、コピーを渡さないならばサインしないことである。このような卑猥な資本主義の犬に屈するくらいならばサインや合意を破棄するべきである。その方が労働者の精神的利害及び社会的契約上の権利の実現と言える。日本の求人詐欺の手口は基本的に香港でも存在している。多くの多国籍企業のアジア太平洋地区の本部は香港であり、人事部が実は香港という大企業も少なくない。手口自体の共通性はここから来ている。
3、紙媒体か電子媒体かを問わず、全ての企業関連の文書を保存すること。これは、雇用契約書から、就業証明、給与支払報告書、税報告書、解雇通知書などを含み、その後労働者の受けるべき権益を要求する基礎になる。
References
1.《勞資審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!zh-Hant-HK
2.香港法例第57章《僱傭條例》僱傭保障Q&A http://www.labour.gov.hk/tc/faq/cap57k_whole.htm
3.勞資審裁處表格 http://www.judiciary.hk/tc/crt_services/forms/labour.htm
4.勞資審裁處條例 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!en
5.第338章 《小額錢債審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap338
6.Cap. 347 LIMITATION ORDINANCE https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap347!en?INDEX_CS=N
7.Cap. 149 General Holidays Ordinance https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap149
8.判例集 https://www.elegislation.gov.hk
雇用条例の全文は、以下の二つのリンクが有用である。日本語は、完訳済みである。
English: https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap57
Chinese: https://www.labour.gov.hk/tc/public/ConciseGuide.htm
Statements
This series of articles about HK labor issues is written by Japanese due to supporting Japanese workers in Hong Kong where differs from Japanese working environment. Moreover, there is no labor consultant for Japanese workers in Hong Kong while facing blood sucking Japanese recruit agents and overseas Japanese 'Black Kigyo' (Evil Companies). Any part of this report may be disseminated without permission, provided attribution to Ryota Nakanishi as author and a link to www.ryotanakanishi.com is provided.
注意:香港には、日本人のための労働相談所はない。また、総じて労働問題対策の出版物は皆無に等しい。日本語だけでは、極めて危険な状態である。香港でも会社の人事部、就職エージェントや企業の人事コンサルタントなどはすべて行為において資本家側であり、自分たちも労働者であるのに、むしろ労働者と敵対するので、要注意だ。会社外の労組へ相談するべきだ。香港では日本人で労働問題を論じている者がいないと言うことはできない。私は永久に労働者階級のために階級闘争を戦う。階級闘争とは、労働者の階級的利害のための一切の社会的な闘いである。
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