香港労働 Hong Kong Labor Issues #8 日本人のための香港労働問題研究:違法解雇から補償を勝ち取るための推定解雇の法理とは?
Updated: Aug 6, 2021
#香港労働法 #日本人 #HongKong #Labor #Issues
推定解雇の法理
香港は、違法な解雇という概念が決して存在しないわけではない。この点を日系企業の労務担当者は決して誤解するべきではない。また、解雇が労働者(プロレタリアート)にとって前進するための解決策として戦略的に正しい場合に活用できるのが、推定解雇の法理である。これは、英語でconstructive dismissalという。これは、日本の労働環境の解決法とは異なる香港で通用している概念である。
この概念は、日本でいう会社都合退職とは異なる。会社都合退職が退職勧奨の上での交渉の産物で、実質的には整理解雇なのに、普通解雇もしくは整理解雇の別表現であるのとは異なり、労働者にとっては違法な雇用契約違反に対する積極的な補償を引き出す対抗手段の一つである。
これは、労基法が資本家側の違法行為において即時解約権を第15条で労働者側に認めているだけよりも労働者に有利である。違約時の即時解約権は香港でも法的に成立しているが、日本では、この即時解約権を行使する場合、失業保険の申請時に注意しなければならない点がある。そこで退職事由が会社側の都合ではなく、労働者の自己都合と記入している場合があり、そこはハローワークに申告する必要がある。さもないと、3ヶ月の受給不能の制裁期間が設けられてしまう。求人詐欺の隠された罠の一つがこの失業保険の手続き上で、会社側がカイシャ都合として申告したかどうかが問題になる。この権利を発動した場合は、法的にカイシャ都合になる。あくまで、失業保険手続きを外部の悪徳社労士に委託している場合は、ハローワークを介して要求していくことになる。この業務がカイシャ管理になっているので、会社側がこのように労働者の自己都合にしてくる可能性が極めて大きい。紛争の種がここに確実にある。
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
○2 前項の規定によって明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
○3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。(1)
以上が日本国内の場合の対処法であるが、香港では契約違反時の民法上の要求の権利が発生する。
推定解雇とは、資本家が重大な雇用契約違反をした場合、労働者側はそれを雇用関係の終了とみなし、賠償を要求できることである。
これは、資本家側の雇用契約違反を労働者が見つけることがまず重要である。この場合、資本家は口頭でも書面でも解雇通知はしていなくても、雇用主の行為が雇用契約に重大違反しさえすれば、それを雇用主が労働者を解雇したとみなして、雇用主に解雇予告手当、さらにはその他の損失を賠償請求することができることになる。
さらに、実質的に雇用主の行為が解雇で、その際労働者が辞職の形式をとっていてもこの推定解雇は成立する。
このケースに限らない重要な民法上の注意点は、双方の協議なるものが民法、民事では重視されるので、労働者側は下手に協議に乗らないことが大切である。
この推定解雇が、現れているのが例えば、雇用条例第10(A)条である。給与が給与日から一ヶ月以内に支払われない場合は、推定解雇の条項の権利を労働者は行使できる。その際、労働者は必ず書面で雇用主に同条項による解約を通知すれば、補償だけでなく、労働者側が予告手当を雇用主に支払う必要がなくなる。香港では、解約の予告手当を相手に支払う義務が発生しうるのは労使双方になる。この点も日本の労基法とは異なっている。労働者はこのような労働者側の負担を最大限軽減させ、補償を引き出すことが重要である。
10A.
Deemed termination of contract under section 7
(1)
Without prejudice to the rights of an employee under common law, an employee may terminate his contract of employment without notice or payment in lieu of notice if any wages are not paid within one month from the day on which they become due to him under section 23.
(2)
Where a contract of employment is terminated under subsection (1), the contract shall be deemed to be terminated by the employer in accordance with section 7 and the employer shall be deemed to have agreed to pay to the employee the sum specified in section 7.
(Added 74 of 1997 s. 5)
また給与の支払いは原則的に当月の給与決済日から7日以内には労働者に振り込まなくてはならないことが、雇用条例第23条で規定されている。
23.
Time of payment of wages
Wages shall become due on the expiry of the last day of the wage period and shall be paid as soon as is practicable but in any case not later than 7 days thereafter.
即時解約権:労働者側が解約予告や解約予告手当を資本家に行わなくても良い場合
雇用条例第10条は、労働者が解約予告や解約予告手当を免除され即時解約できる権利である。これが、労働者を奴隷と分かつものである。しかし、これは推定解雇とは違う概念であり、労働者側が賠償を得られるというものではなく、それはあくまで推定解雇に持ち込むことで可能となる。
1、合理的に自身に暴力や疫病などの危害が及ぶ恐れがあり、このような状況になることが雇用契約でも明示や根拠がないこと。
2、雇用契約年数が5年以上である。
3、第49条で規定される医師の診断書で当該業務に適さないことが証明される場合。
4、雇用契約でこのような業務に従事しなくてはならない場合。
5、労働者が雇用主から酷い待遇をされる。
6、労働者がその他の理由で、普通法に基づいて解約予告を通知せずに、雇用契約を解除できる。
労働紛争では、労働者はその雇用主の酷い違法な対応を証明するために医師の診断書を用意するのは有利である。これは日本でも有効な解決法である。
その他の推定解雇の可能な状況とは?
先の給与支給の期間だけではなく、例えば、雇用主が一方的に労働者の給与を減給するとき、労働者が反対しても、雇用主が堅持する場合である。労働者は必ず書面で、権利行使の理由を明示し、雇用主に契約解除を通知できる。また、労働者が即時離職したくなくても、とりあえず相手には当該減給、契約内容の変更は受け入れない旨を通知し、一切の権利を保留する旨を伝える必要がある。この場合、相手の出方を当面見るべきである。
推定解雇方式を可能にする契約違反となりうる契約項目は?
これは、基本的に職務及び雇用契約の内容によるとされる。
1、仕事の場所
2、労働時間
3、職位
これらも、推定解雇方式を可能にする契約違反とみなせる項目である。重要なことには、配属転換、異動も不合理性を証明し、推定解雇の範疇に入る。その他、最重要条項の賃金など雇用契約上の本質的に重要な条項への違反が該当すると考えられる。
例えば、資本家側が不合理にも労働者を他の支店に配属異動させる行為も、推定解雇とみなされる。
しかし、雇用契約の変更もその重大性で考慮される。例えば、勤務時間を15分ずらす程度ならば推定解雇の範疇には妥当しない。
申告者としての労働者が辞職していても推定解雇の法理は成立する
これは、王曉秋氏が救世主軍港澳軍区を告訴したケース(HCLA 27/2005)の判例法理で確定した。
労働者に普遍的に妥当するが、解雇が転職に悪影響するからと即時解雇ではなく、即時辞職方式で離職した労働者が、実質的には解雇であったとして解雇予告手当や遣散費、長期勤務金の補償を請求するのは正しい。これらは、復職の意思も見込みもない状況下で労働者が最大限の補償を要求し、自身の生存圏への脅威を取り払う努力をするのは正確な行動である。
ただし、争う上で、まず審裁所は形式的には即時辞職で雇用関係が成立したことを追認して申告者が敗訴している。そこで当該労働者は上訴し、そこでのポイントは真に即時離職がその労働者の側からの辞職によるのか、それともそれをもたらしたのが、資本家側が解雇の意思を示し、辞職へ持ち込んだ推定解雇か、解雇したのかである。
香港では、このように雇用関係を終了したのが実質的にどちらの側なのかを問題にし、その文字面、双方が採用した形式手段に基づいて判断しない。ここでは、さらにそのようにするのが合理的か否かも問われていない。
これ以外の判例法理でも推定解雇の法理が成立している。East Sussex County Council v Walker (1972) 7 ITR280でも、まず雇用主側がシェフに雇用関係の終了を知らせ、当該労働者に自発的に辞職することを促しているが、それも整理解雇によるものだと判断され、リストラにおける補償を資本家に命じている。退職強要、解雇をチラつかせた辞職要求も違法である。
解雇自体が、ネガティブなものでも、ここでは違法解雇が多いゆえに、その補償を労働者にもたらすための法理になっている。本来あるべき補償がいかに失われているかも示している。
そして、この手段は日本でも用いられている。
自主的に退職しなければ、解雇するという脅迫である。
この状況下で労働者たちが自発的な辞職をした場合に、この推定解雇の論理で補償を得たのである。
ちなみに、日本では解雇者を出した会社にはハローワークからの雇用助成金は得られなくなる。その上、解雇日に同時に支払わなくては違法になる解雇予告手当、未払い残業代、雇用保険資格喪失手続き、事業主側、及び労働者側の離職理由で争う余地のある離職票(雇用保険授受の制限期間に影響する。この制限期間は労働者への罰則に等しい。)、解雇理由証明書、還付金を得るための源泉徴収票の発行などの強制力ある罰則付きの補償、義務を会社に発生させることができる。香港では、労働保険のうち、雇用保険はないが、労災保険はあり、日本同様資本家負担である。そして、社会保険では厚生年金(日本で会社は労働者の加入義務があり、厚生年金に加入している方が長期的に老齢年金が高い。)はなく、健康保険(日本では会社は労働者の加入義務および負担義務がある)は、法的に強制されていない。民間の健康保険、歯科保健、生命保険など企業側の任意と成る。ついでに日本について言うと、国民保険は労災に対応せず、私傷病には適用されない。業務委託請負契約という違法な労働契約をさせられる労働者は長期的には社会保障上本来授受するべきものの損失が合計で巨額になるのを自覚するべきである。労働問題も早期発見、対処が重要である。
労働者は、自身から辞めて利益を得ることはないのは、香港も同様である。これらの判例法理では、自発的な辞職は形式に過ぎず、体面を保つための形式であり、実質的には解雇であり、それに伴う補償が発生する。なぜならば、離職理由に関してこれらの判例でも資本家側は理由を偽ったからである。理由とは、離職が労働者側によるか、資本家側によるかである。
しかし、ここでも推定解雇が適用されるのは労働者がまず、雇用主の主張を受け入れず、それにおいてその他に選択の余地がない場合である。労働者が注意するべきは、雇用主の主張を受け入れず、同意しないこと、双方の協議を経て自らの願いで辞職するという方式に乗らないことである。香港の人事部は必ずこの方向に持って行く。