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香港労働 Hong Kong Labor Issues #7 日本人のための香港労働問題研究:金銭解雇の天国、理由なき解雇の問題についての詳論

Updated: Feb 3


香港労働 Hong Kong Labor Issues #7 日本人のための香港労働問題研究:金銭解雇の天国、理由なき解雇の問題についての詳論
FILE PHOTO: Calculate Savings © WiX

金銭解雇可能下で団体交渉権がない香港の労働組合

香港では、労働組合には団交拒否企業を不当労働行為で糾弾できる強制権を有した団体交渉権がなく、労働者はアジアで最も不利な労務環境にある。ネオリベラリズムの最も完璧な環境が香港である。日本の労働環境の未来形が香港であり、ネオリベ社会の典型的な問題の全てがここにある。

香港の労働組合は、企業内労働組合と産別労働組合、そして産別労働組合の連合から成る。企業内組合が日本以上に信頼出来る場合は、それが経営陣と一体化した労働組合ではなく、非管理労働者から成る自主的な企業内労組であり、労工所に登録している場合である。

基本は、産別組合の連合への参加であり、個人加盟ユニオンは発展していない。嘗ては、日本の連合とも交流していた工聯会が政治的にもまともなので信頼出来る。香港では、団交による改善の道がないので、自ら立法委員を出して法的な改善に取り組む道で彼らは労働運動に従事している。

問題は、個別の労働問題では日本の労組よりも解決手段が少ないので、アドバイスや情報提供終始で、基本は行政機関、司法機関での解決を図る。ストライキは日本よりもメディアの注目を集めやすく、従って政治的に利用される危険性も高い。ストライキの決行は多くがさらなる労働紛争に発展している。労働者の保護は法的欠陥があるために不十分である。

急務なのは、団体交渉権の確立である。これなしには、香港の労働組合はかたわだからである。団体交渉とは、労働委員会と強制力のある違法労働行為を成立させる規定があって初めて団交であり、いわゆる経営陣との個別の偶然性の支配する集団交渉のことではない。労組による法的な拘束力ある団交と個別の集団交渉は似て非なるものである。この点は、団体交渉権がない香港では観念が依然曖昧模糊としている。ちなみに集団とは最低2人以上である。

今回の論考では、労働組合と解雇の問題を実際の事例に即して考察する。

ストライキを行った労働者たちを即時解雇した事例

判例法理:Liu Kin-Yip & 16 Others v Jackel Porter Co. Ltd. (LTA 53/1993)

物流会社の13人のドライバーたちが労働条件の改善を求める際に、まず運搬業務を行わず、帰社後に労働条件上の要求をしたケースでは、高等法院の上訴審は故意に合法的かつ合理的な業務命令に従わなかった、正当かつ誠実に職責を履行する原則に符合しないという理由で雇用条例第9条の即時解雇(懲戒解雇としての)を認めた。日本のブラック士業は香港の人事労務管理で即時解雇を誤って教えている。無条件に金銭解雇=即時解雇が成立していると誤解している。即時解雇は金銭解雇ではない。それは、試用期間最初の1ヶ月以内だけでそれ以外では原則的に違法である。

9.

Termination of contract without notice by employer

(1)

An employer may terminate a contract of employment without notice or payment in lieu—

(Amended 51 of 2000 s. 2)

(a)

if an employee, in relation to his employment—

(i)

wilfully disobeys a lawful and reasonable order;

(ii)

misconducts himself, such conduct being inconsistent with the due and faithful discharge of his duties;

(iii)

is guilty of fraud or dishonesty; or

(iv)

is habitually neglectful in his duties; or

(b)

on any other ground on which he would be entitled to terminate the contract without notice at common law.

(2)

The fact that an employee takes part in a strike does not entitle his employer to terminate under subsection (1) the employee’s contract of employment.

(Added 51 of 2000 s. 2)

しかし、このようにストライキを即時解雇理由の正当な理由に認定する判例法理は、2000年同条項の修正で、その第2項は資本家が、労働者がストライキに参加したことを根拠に、第9条第1項で解雇する権利がないことを確定した。イギリス植民地時代を脱して初めてストライキ権が保護された。

もちろん、これはストライキに参加経験のある労働者を解雇できないのではなく、ストライキの行為を重大な過失と判断して即時あるいは普通解雇することができないということである。

これは、労働者にとってのわずかな改善と言える。ストライキの権利を侵害していた植民地時代の判例法理は否定されたのである。ストライキ参加は解雇の正当な理由にはならない。

企業内労働組合を狙い撃ちにした集団普通解雇の事例

判例法理:Campbell Richard Blakeney-Williams and others v Cathay Pacific Airlines Limited and others (FACV 13/2011)

パイロット達はこの香港最大のキャセイパシフィックの企業内労組で、パイロット達の労働環境改善のための労働原則を組合会議で可決した後に、企業側は雇用条例では勤務中に労組活動をするのは違法だとして、49人のパイロットたちをリストアップし3ヶ月の解雇予告手当を支払い、解雇通知に理由も明記せず解雇した。

裁判では、企業側はパイロットたちの労組活動を正当な解雇理由にせず、出勤、仕事への熱意の欠如(やる気のなさ。これもマネージメントの評価シート上の常套手段)、非協力的、常時連絡不能などの労働者の行為を解雇理由として主張した。普通解雇時の具体性のない抽象的な常套文句である。この具体性のない上での評価フォーマットへの記入方式では感情や意思の疎通に深刻な打撃になり業務進行を阻害するだけである。労働者は物ではない。

ちなみに、企業側は当該パイロットたちが声明を出し反発するとselfish; holding people to ransom; bad employee; disruptiveなどと評価を下したが、さらにそれが誹謗中傷として別に法廷で判定されている。労働者はこうした企業側の言説も全て最大限利用し、告訴の材料にするべきである。それを不当解雇の紛争に有利に使うのである。

不当解雇の敗北

1、企業は一方ではパイロット側の行為で解雇したというが、しかしこれらの理由ではないともいう。法廷は主要な原因は企業側が労組の活動に対処する目的が主要な理由であり、パイロット個々の行為が原因ではない。つまり、真の目標は労組であり、個人ではないと認定した。労働者の行為を正当な理由にする論拠は成立していない。こじつけとして捉えられるのは、より確実な背景たる労組の活動が存在していたからである。

2、企業側は、労働者側に紀律上の調査及び弁解の余地を与えていない。さらに、個別のパイロットたちの行為の不当性の証拠がない。したがって、第32K条の正当な理由に該当しない。まさに、正当な理由なるものへの現実の妥当性の争いになる。何が、主要で単一で有力な理由なのか、煩雑でない理由なのかが重要である。集団で労組という法的単位で法的に団結していることも主要理由が労使どちらの側かの争いで有効である。これは、労働者は団結しなくては勝利できないことの社会的な典型と言える。まさにこの意味である。

32K.

Reasons for the dismissal or the variation of the terms of the contract of employment

For the purposes of this Part, it shall be a valid reason for the employer to show that the dismissal of the employee or the variation of the terms of the contract of employment with the employee was by the reason of—

(a)

the conduct of the employee;

(b)

the capability or qualifications of the employee for performing work of the kind which he was employed by the employer to do;

(c)

the redundancy of the employee or other genuine operational requirements of the business of the employer;

(d)

the fact that the employee or the employer or both of them would, in relation to the employment, be in contravention of the law, if the employee were to continue in the employment of the employer or, were to so continue without that variation of the terms of his contract of employment; or

(e)

any other reason of substance, which, in the opinion of the court or the Labour Tribunal, was sufficient cause to warrant the dismissal of the employee or the variation of the terms of that contract of employment.

3、契約書上明記の労働者側に紀律上の調査及び弁解の余地を与えていない。行為が不当であるというなら、企業側は調査弁解の余地を労働者側に与えなければならない。いわゆるいきなりの告知やExit Meetingがこれに代替するのではない。

4、労組活動は保護された行為である。企業側はそれを侵害してもいる。したがって正当な理由にすることができない。この合法性の判断は裁判官でありあくまで労使ではない。しかし、最高裁では勤務中の部分の労組活動はストライキを含め保護外としているが、基本は労働者に有利なままである。

5、理由を明記しない解雇通知が、解雇理由を示した解雇後の声明の前、及び当初の解雇通知内において労働者側の行為の不当性を一切明記しない曖昧手口は、解雇における補償を、それを理由に帳消しにすることはできない判決が下された。解雇後の声明(労働者側の行為のせいにする後出し声明)は、あくまで解雇行為の一部分と認められるからである。

6、雇用主は刑事責任を免れない。

このケースは、労働者側の偉大な勝利であり、際限のない金銭解雇に鉄槌を食らわせた重要な判例法理となった。


よく病気で休日を取ることを解雇理由に?

判例法理:許婉心 v Damask Company Limited (HCLA 40/2002)


この判例法理では、雇用条例第vii部、第33条4B項では、有給の病気休暇のみ解雇ができないとされている。したがって、これ以外では解雇理由にすることが可能になる。しかし、前述の判例法理では病気の休暇を取ることは保護を受ける行為である。この矛盾は争う余地があることを示している。


Part VII

Sickness Allowance

(Part VII added 39 of 1973 s. 5. Format changes—E.R. 2 of 2012)

33.

Sickness allowance

(4B)

Subject to subsection (4BAA), an employer shall not terminate a contract of employment of an employee otherwise than in accordance with section 9 on any sickness day taken by the employee in respect of which sickness allowance is payable under this section.

(Replaced 7 of 2001 s. 8)


労災の治療期、妊娠期、及び病気休暇中の解雇

当該期間内の解雇は資本家側が刑事責任を問われる行為である。しかし、この期間中に、第32K条の正当な/有効な理由があれば労働者側は補償を得られないとされている。

資本家側による一方的な契約内容の変更

雇用契約内容は基本一方的に変更できないが、業務上必要なことを証明できれば補償はいらないと判例法理(Chan Kam Yau and Cheung Suet Ha v The Hong Kong University of Science & Technology -DCCJ 4016/2006)で決まっている。例えば、MPFの事務手続き上の請負企業の変更の類。権益を喪失あるいは減少させるものの類でなない。

もちろん、これらはあくまで法廷に持ち込んだ場合に全て有効になる判断である。これらは、善かれ悪しかれ、労働者側が法廷にまで闘争を持ち込んだ場合に、権利を行使した場合に初めて現実のものとなる。労働者側は、あくまで資本家側の解雇に至る企業側の背景を主要理由として主張し、正当な理由なるものの成立を阻むことが法廷論争では必要な姿勢方向性である。労働者は無抵抗であってはならない。それは全体に貢献するものとはなりえないからである。個別で奮闘することは大前提であり、最低限全体へ貢献する基礎である。全体が個別に代わって処理してくれるわけではない。双方向性の社会的な作用が求められる

香港労働問題研究論考30章

(以下リンクより各論考へ)

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香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項

1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。

2、もし、雇用主に解雇された場合、いかなる文書にもサインしないこと。また、何かにサインする前に、自身に不利ではないかまず内容をよく見ること。不明な点は、質問しはっきりさせ、解答が不明瞭ならばサインは拒否するべきである。つまり、理解できないものは拒否すること。下劣な香港マネージメントは手口としてあからさまな詐欺を働く場合もあり、それはサイン無効として追究する道を開く。ここで、重要なのは、サインした全ての公式、非公式の文書はコピーを要求する権利があり、コピーを渡さないならばサインしないことである。このような卑猥な資本主義の犬に屈するくらいならばサインや合意を破棄するべきである。その方が労働者の精神的利害及び社会的契約上の権利の実現と言える。日本の求人詐欺の手口は基本的に香港でも存在している。多くの多国籍企業のアジア太平洋地区の本部は香港であり、人事部が実は香港という大企業も少なくない。手口自体の共通性はここから来ている。

3、紙媒体か電子媒体かを問わず、全ての企業関連の文書を保存すること。これは、雇用契約書から、就業証明、給与支払報告書、税報告書、解雇通知書などを含み、その後労働者の受けるべき権益を要求する基礎になる。

References

1.《勞資審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!zh-Hant-HK

2.香港法例第57章《僱傭條例》僱傭保障Q&A http://www.labour.gov.hk/tc/faq/cap57k_whole.htm

3.勞資審裁處表格 http://www.judiciary.hk/tc/crt_services/forms/labour.htm

4.勞資審裁處條例 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!en

5.第338章 《小額錢債審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap338

6.Cap. 347 LIMITATION ORDINANCE https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap347!en?INDEX_CS=N

7.Cap. 149 General Holidays Ordinance https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap149

8.判例集 https://www.elegislation.gov.hk

雇用条例の全文は、以下の二つのリンクが有用である。日本語は、完訳済みである。

English: https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap57

Chinese: https://www.labour.gov.hk/tc/public/ConciseGuide.htm

 

Statements

This series of articles about HK labor issues is written by Japanese due to supporting Japanese workers in Hong Kong where differs from Japanese working environment. Moreover, there is no labor consultant for Japanese workers in Hong Kong while facing blood sucking Japanese recruit agents and overseas Japanese 'Black Kigyo' (Evil Companies).  

Any part of this report may be disseminated without permission, provided attribution to Ryota Nakanishi as author and a link to www.ryotanakanishi.com is provided.

注意:香港には、日本人のための労働相談所はない。また、総じて労働問題対策の出版物は皆無に等しい。日本語だけでは、極めて危険な状態である。香港でも会社の人事部、就職エージェントや企業の人事コンサルタントなどはすべて行為において資本家側であり、自分たちも労働者であるのに、むしろ労働者と敵対するので、要注意だ。会社外の労組へ相談するべきだ。香港では日本人で労働問題を論じている者がいないと言うことはできない。私は永久に労働者階級のために階級闘争を戦う。階級闘争とは、労働者の階級的利害のための一切の社会的な闘いである。


香港労働 Hong Kong Labor Issues #7 日本人のための香港労働問題研究:金銭解雇の天国、理由なき解雇の問題についての詳論
Ryota Nakanishi's Hong Kong labor law knowledge was qualified by professional examination by HKFTU in 2019.
香港労働 Hong Kong Labor Issues #7 日本人のための香港労働問題研究:金銭解雇の天国、理由なき解雇の問題についての詳論
Ryota Nakanishi's Hong Kong labor law knowledge was qualified by professional examination by HKFTU in 2019.

 

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