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香港労働法 Hong Kong Labor Issues #45 日本人のための香港労働問題研究:香港に於ける求人詐欺の概念の差異と日本との同一性、種類、実態調査、対処法及び現地法制等の諸問題について

Updated: Aug 6, 2021

#香港労働法 #日本人 #HongKong #LaborIssues



IMPORTANT


香港の求人詐欺の実態調査結果(2019年時点)


Investigation of Employment Fraud in Hong Kong


調査無くして発言権なし、同様に果断な実践なくしては有効な理論もないし、なんらかの積極的な結果に最終的に、長期的に、直接・間接的に結びつくこともない。
FILE PHOTO: Hong Kong Police provided the data of employment fraud cases in Hong Kong. ©Ryota Nakanishi
FILE PHOTO: Hong Kong Police provided the data of employment fraud cases in Hong Kong. ©Ryota Nakanishi

2017年以降の現地採用の日本人労働者の相談案件では、香港のブラック企業による個別の数々の違法行為の細部列挙や云々以前に、実はそもそも最初の求人段階において求人詐欺の被害である案件が主要である。つまり、案件全体が違法な無免許による人材紹介業経営という完全な違法のケースの類であり、その上での個別の雇用者行為も全て違法なのである。そうした似非企業は、労働者派遣法のない香港において、往々にして日本人を標的にする日本的な派遣労働者の派遣業者という体裁を採っている。


求人広告問題で、日本で引き合いに出される2017年の職業安定法改正は、日本では日本のハローワークの無料求人広告に関してに過ぎない。ところが、それよりまずい事に、放任主義の香港の労工処では、それすらない。


しかも、要注意は、求人広告で一見本来通常なら正社員の職なのに、恐ろしく短期になっている募集は、単なる非正規の短期の職ではなく、企業による請負、出向、派遣を前提にしたフリーランスの募集の場合が多い。日本の偽装請負問題の様に、雇用責任が曖昧模糊な複雑な契約トラブルになりやすい。日本以上に直接雇用のパーマネントを基本原則にするべきである。


しかも、「労働条件通知書」と「就業規則」の提示のうち、前者が日本の様に文書で義務付けられていない上に(香港は内定・採用通知書と一緒になっていたり、メールで簡単に済ませている)、「就業規則」が実質的に個別契約に優先する、或いは契約書の文面にないが、その解釈を規定していたり、その細部及び全体、本体に該当する考え方は明記されていないが、潜在的には日本とも共通なので、要注意。


つまり、求人広告、面接説明、労働条件・採用通知書、契約時の人事部の説明、オリエンテーション時の説明、就業規則の間の齟齬が、求人詐欺を構成する。特に、就業規則は香港でもかなり後出しになっている。


通常日本人はどこで人材紹介業者の免許の有無を確認するのかも検討もつかないし、そもそもそこまで気にしていないのが通例である。言い換えると、まず、この点に求人詐欺の集団による狙いどころがある。企業がすることはなんでも無条件に正しく、大人であり、身を任せれば全てがスムーズに行くという、社会的に幼少より植え付けられた資本家本位の一面的な幻想や実際にそぐわない先入観が労働者を悪戯に危険な状態に追いやっている。


香港の求人詐欺の概念は、日本の求人詐欺の概念とは行政機関側の解釈が異なっている。香港の求人詐欺の行政側の固定観念は、偏向しており、それは純粋な詐欺集団による刑事事件としての詐欺による資金洗浄と、それにはめられた求職者が加害者扱いされ刑事処罰される案件を念頭においている。こんなに大切な就職時の知識を学校ではもちろん教えてくれない。労働者を意図的に愚民政策で、自分たち自身の権益に対して社会的に無知な状態においている。これは、資本主義社会の資本主義教育の最大の特徴である。最低限、労働問題は公的義務教育の必須科目でなければならない。


これが、まず広義の、日本的な意味での求人詐欺を念頭に置く日本人労働者にとって一つの現地行政機関とのコミュニケーション上の障壁に往々にしてなっている。日本的な求人詐欺の概念とは、求人広告において実際の労働条件や契約内容と異なる内容の広告掲載をし、後から断れない窮地にある求人者に広告とは異なり比較的劣悪な、或いは不利な労働条件や契約を強いる手口の事を指す。日本の労働組合も現在ではこの様にまず自動的に求人詐欺の概念を解釈している。


香港の求人詐欺の概念は、解釈する側にとって反射的に刑法における詐欺行為と資金洗浄にこの趣き、重心が置かれ、日本のそれと固定観念上異なっているのが香港である。


しかし、香港の行政側に理解力が欠如しているわけではなく、問題性を認識することはできるし、叱責や苦情により日本的な意味での求人詐欺の類では相手企業側に、自主的な改善を促す事は可能であるし、実際にそれは2018年から2019年に跨り処理した案件で最終的に実現する事ができた。


この日本と香港で共通している日本的な意味での求人詐欺の案件は、それが無免許な人材紹介所で発生していない限り、行為自体を直接処罰する法律が香港にもない。日本では、人権担当をおいているところもあるが、いずれにせよ人材広告会社、公共職業安定所ハローワーク掲載ならよくて削除や掲載拒否の処置をするぐらいである(しかし、彼らの調査とは、行うとしても単に電話で相手企業に直接問い合わせるという幼稚なものでしかないし、民間の日本の人材紹介会社も最初の商談時に相手企業に訪問をしているからと、電話確認が普通である)。


従って、香港でも行政機関を通した苦情処理か、個人的被害に立脚した民事訴訟しかない。香港も日本も、求人広告の問題は求人掲載企業の自主規制として放任しているのが実態である。であるからして、無政府状態下で求人詐欺がなくならないどころか、増加の一途を辿っている。


以下、香港で発生した幾つかの重要な求人詐欺の事件ニュースを見ていく。ニュースではなく、お笑い番組しか見ないというのは社会的に致命的である。日本の場合は、香港や海外とは違い、大半の1日のニュースが芸能事務所の記事広告で埋め尽くされているからニュースやジャーナリズムにとって良い環境ではない。この点も日本と香港では断然異なる。


ここでは、香港的な一義な求人詐欺と日本的な意味での求人詐欺の両者が実際のケースでは同時に混在していると言う事、前者は不可避的に後者を含んでいるし、後者にしてもそれが純粋な詐欺集団と金銭詐取、資金洗浄という犯罪行為の項目を伴わなくても、労働者の商品である労働力とその購入という資本家との雇用関係においても、市場における交換行為における一種の詐欺である事に変わりはない。つまり、この異なる求人詐欺の概念は、実際は同一の事象の異なる側面を、思考上切り出して抽象的に固定化し、全面化しているだけである。


日本と香港のケースを念頭に全体を一つの概念としてまとめると、


求人詐欺(中国語では求職陷阱/求職の落とし穴とか求職騙案/求職詐欺案件とも言う):

a.ヤクザ、詐欺集団による求人広告を悪用しての求職者に対する金銭詐取、銀行口座及び暗号を含む個人情報の違法使用による借金持ち逃げ、果ては運び屋として違法な武器や薬物運搬の身代わりを強い、低賃金ネット工作員として会費支払い要求及び資金洗浄など刑法における詐欺行為を行う事である。

b.求人広告から最後の使い捨ての段階まで、無免許による人材紹介・派遣業者による違法な人材派遣行為に従事する事。この間の個々の違法雇用者としての行為自体がそもそも違法となる。

c.求人広告と実際の根幹をなす労働条件や雇用契約内容が異なり、それが労働者に不利である事。採用後の一方的な不利益変更もこの範疇に含まれる。日本人的に話が違うという場合がこれである。

aは、香港警察が盜竊罪條例》(盗罪条例;とうせつざいじょうれい)によって処理し、bは、《僱傭條例》(こようじょうれい)と《職業介紹所規例》(しょくぎょうしょうかいじょきせい;規例とは規制の事である)によって、労工処の職業介紹所事務科(職業紹介所事務科)が処理する。ただし、条例以外は法律ではないので、あくまで条例が主要である。cに関しては、日本も香港も直接規制する法律がない。求人詐欺は、商品広告全般を取締る税関、警察、労工処三者を跨いでいるし、個人情報の取り扱いに関しては私隱公署(PCPD)も部分的に求人広告に関係する。そこで、全体として統括する求人広告条例が必須なのである。求人詐欺に関連する行政機関は、これらの部署に止まらないが、後で詳述する。


大事なのは、上記のaとbという概念の内包に、cは必然的に含まれるという事である。この理解の上で、個別の香港の求人詐欺事件を見なくてはならない。日本とは固定観念上違うというが、それは外的で、表面的な差異であり、概念自体、事象の本質においては一つの全体をなしている。


差異は、香港では求人詐欺は基本aをもっぱら指し、日本では一般的に今ではcを指すという事である。実際は、香港の現地採用の日本人が被害に遭うのはbも含まれており、疎かにできない。何度も言う様に、aとbには必然的にcが包含されている



FACTS


香港に於ける最初の求人詐欺の自覚的問題意識の高まりを示す典型的ニュースが、2015年11月8日の東方日報の以下の記事である。


求職手機應用程式(Apps)愈趨流行,根據法例,無論職業介紹所以哪種模式經營,必須領取勞工處的職業介紹所牌照,惟本報記者抽查10個本地求職Apps,發現半數沒有領牌。無牌職介Apps 肆虐,勞工處在過去3年僅檢控3間涉及無牌經營的職介所。立法會議員批評勞工處「炸彈唔爆都唔理」,姑息無牌職介,損害求職者利益。


求職手機應用程式(Apps)近年極為流行,記者下載求職Apps測試,按選職位空缺後未幾就有人致電約見面試。根據《僱傭條例》及《職業介紹所規例》,所有為他人覓取職位或向僱主提供員工的業務,不論其經營模式,必須先領有勞工處發出的職業介紹所牌照。記者日前翻查勞工處領牌職介名單,卻發現有5個求職Apps沒有領取職業介紹所牌照。


記者以求職者身份致電其中一間公司查詢,對方表示,純粹為求職者提供職位空缺資訊,認為毋須領取職業介紹所牌照。記者再到另一間公司視察,負責人稱只負責開發及管理有關程式,程式本身作為「搵工平台」,將求職者資料加以整理後即時傳送予僱主。他強調僅以廣告費形式收取僱主費用,經營模式上與傳統職業介紹所不同,認為當中無涉及職業介紹服務。(1)


香港だけでなく、中華圏の求人詐欺は新聞広告が伝統的に最多であり、そして今やその主要な窓口はSNSとなっている。これは、スマホのアプリを当然包括している。免許を有しており、労工処の職業介紹所事務科に登録され、検索可能な職業紹介所だけではなく、無免許でSNSとスマホのアプリを活用している無免許の職業紹介所が、香港の人材紹介アプリの半数以上を占めている。統計を始めた2017年から既にスマホアプリを含めたSNSが主要な被害の場になっているが、2018年は4.76倍増加である。


もちろん、これは放任主義で悪名高い労工処の職業介紹所事務科が、3年間で3件の無免許違法職業紹介業者の免許取り消ししかしていない事はいかに違反行為や罰則規定が不十分であるだけでなく、行政側の怠慢であるのは言うまでもない。


その結果、2018年は香港史上最も求人詐欺が倍加し、2015年の3.68倍であり、被害総額も6.59倍の19,200,000HKDと日本円にして億を超える被害になっている事は、労工処の職業介紹所事務科が、いかに取締りに無力であるかを物語っている。しかも、労工処は労基署ではなく、警察権を有していない。企業側の任意での調査を、管轄下の免許取得企業に関してしかできない。


ここでは、雇用条例の長年修正されていない条文にも問題性があるし、「雇用条例に具体例としての列挙がないために、ジョブボードで、実質は広告会社であり職業紹介所ではないというのがそうしたブラック企業の言い分である。グレーゾーンを脱法的に悪用する企業をもブラック企業と呼ぶのは、至極妥当である。そもそもブラック企業は単に違法企業を指すだけではないというのが基本的理解だからである。


しかし、条文上の職業紹介所の定義には日本では含まれないジョブボードも含まれている。これは、香港には日本の様に特定のタイプのエージェントが付いて案件を紹介してくる職業紹介所と助成金制度の連結された関係が存在していないからである(職業紹介所へのコロナウィルス緊急助成金としての職業介紹所資助計劃は例外)。


日本では、「雇用関係助成金」が特定のタイプの民間の有料・無料職業紹介事業者の利用と利権により結合されている為に、jobsDBの様なジョブボードが職業紹介所の概念から除外されているが、香港では異なる。(2)


この定義の問題も、無視できない障害になっている。以下は、