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香港労働 Hong Kong Labor Issues #33 日本人のための香港労働問題研究:雇用契約関係と未来社会の趨勢

Updated: Nov 3, 2023


FILE PHOTO: A Business woman ©WiX
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香港の雇用契約関係のまとめ

 

業務委託契約の労働なるものは、似非フリーランスであり、違法であるが、近年それを合法化する判例が日本でも冠婚葬祭ベルコの2018年の裁判で確立している。元来は、バブル崩壊以降の映像業界の常態化した手口だったものが、果ては労働者を全て業務委託化するという個別雇用契約の労働者性の問題だけでなく、細分化され外部委託先会社の体裁を保ち業務委託契約を結び、本来の企業内部門や同一企業内店舗であるものを外部委託として扱う方法が確立している。これにより、個別の労働者性を争う問題を回避して、丸ごとその支社支店と言う名の外部委託先扱いの部門との委託契約を解除して、労働法制の責任を負わない集団解雇を可能にしている。


ここでの問題は、単に個別の業務委託契約としての労働の労働者性の問題だけを見るのは、森を見て気を見ないことになる。さらに全体としては、本来の同一企業内の部門と外部委託契約をして労働者たちの所属する部門全体を業務委託にする多重契約で、本社責任を分断し、また全て業務委託で繋がっているので集団解雇も労働法制上の責任を回避できる手口である。つまり、個別の業務委託労働なる問題だけでなく、同時に全体としては企業内関係の偽装の問題を孕んでいる。これが、判例法理として成立しており、安倍政権はこの様な従来の組織形態と雇用形態を否定する雇用形態である業務委託労働を拡大させる趨勢である。この未来社会は、労働者階級が法制上存在せず、全てフリーランスの社会になる。実質的には、彼らは労働者であるにも関わらずに。これは、労働法制及び福利制度を葬る事である。


1.連続性の契約


まず香港の雇用契約の基本形、標準となる雇用形態は連続性の契約のものだけである。これは、継続性の契約であるが、無期、有期正社員として法的に規定されていない。しかし、日本の労働法制では労働者として正規も非正規も法律自体では同じとして扱われる体裁がある。


ここでは、労働法制の保障の該当範囲となる雇用契約が規定されていることから、ここに該当しない雇用契約が排除される。この点にも、業務委託契約と同質の無保障状態が広がっており、つまりパートタイムが実際的には業務委託労働なる似非フリーランスとほとんど同質の劣悪労働になるのである。


似非フリーランス契約だけが、似非フリーランスの手口の範疇に該当しているわけではない事は見落とされている。なんらこの点の法的な保障をと言う声はないのが不思議。


連続性の契約という概念は、香港の労働法制の基本概念である。この定義は、労働者が同一の雇用主の為に連続して4週間、毎週18時間以上勤務する者であれば、それは連続性の契約と認定される。これにより、初めて、雇用条例(香港法第57条)の保障対象になる。


これを、418ルールと言う。従ってパートタイムは、業務委託労働なる似非フリーランスのものと同質になる。フルタイムやパーマネントは、基本的選択肢である。この418以下にも存在する業務委託労働なるものを規制する事は、似非フリーランス撲滅と不可分である。雇用契約が、業務委託契約でなくても、418以下では業務委託労働契約なるものと同質になる。


2.雇用契約の終了


1、予告期間か予告手当


上記の連続性の契約に符合すれば、雇用主が労働者を解雇する時に予告期間を与えるか予告手当を支払う必要がある。香港では、この予告手当を払う義務が被雇用者の側からの雇用関係終了の場合にも必要だが、労働者側の場合は払わなくても罰則はない。従って、香港の人事部の連中は、一筆書かせて縛ろうとするが、労働者側は拒否していい。


この処理方法は、a)もし両者が雇用契約で特定の通知期間を規定していない、明記していない場合は、予告期間や予告手当は一ヶ月以上でなくてはならない。b)もし両者が雇用契約で特定の通知期間を規定しており、明記している場合は、予告期間や予告手当は1週間以上でなくてはならない。規模に限らずこの最低基準にしている企業が多い。


2、試用期間内で雇用関係を終了


もし両者が雇用契約で特定の試用期間を規定しており、明記している場合は、予告期間や予告手当は以下でなくてはならない。


a) 試用期間の最初の一ヶ月目は、お互いに予告期間や予告手当は不要。即時解除できる。

b) 試用期間満一ヶ月以降は、全て両者が明記した予告期間や予告手当で契約を解除する。しかし、その際も1週間以上でなくてはならない。もし、何も明記していない場合は、1週間以上であればこれまたいいとされる。つまり、試用期間なしのみが一ヶ月の法定の要求になる。それ以外は、1週間しかない。


3、有給年休と雇用関係終了


雇用主が雇用関係を終了する際に、労働者が未消化の年休は解雇予告期間に含めてはならない。しかし、雇用主はその分の金銭を支払い年休に代替できる。



4、分娩休暇と雇用関係の終了


分娩休暇は、例外なく雇用関係終了の予告期間に含めることが出来ない。


5、即時解雇出来て、法的な補償が不要な場合


(1)雇用主側:労働者が被雇用者の間の期間(雇用条例第9条)これは、日本の懲戒解雇の場合である。即時解雇とは、懲戒解雇の場合のそれであり、予告手当を支払う事で即時解雇に等しい状態になる場合は外観はともかく、本質的に違う。


a) 故意に合法的且つ合理的な命令に従わない。

b)不当行為:正当且つ忠実に職責を履行する原則に反する。

c)詐欺や不忠実な行為

d)よく職責を怠る。

e)雇用主がその他の理由で、一般法の権限で予告期間を与えずに契約を解除できる場合。


全く、曖昧で、どうにでも解釈できる余地がある。本来は、この部分の明文化は労組が反対していたものである。解雇への心理的、社会的な圧力は、それを困難にする社会的な労働者運動の圧力の存在やその利益に適う判決が多く蓄積されている場合に形成される観念である。そして、それは団交や裁判で争う以外にないものである。


もし、労働者が労組のストライキに参加する場合、雇用主が予告期間や予告手当を与えずに解雇できる理由にならない。これは、法改正の賜物である。


注意:即時解雇は、日本の懲戒解雇に当る。香港では刑事的な立証責任が雇用主に問われる。最も厳重な規律処分であり、労働者が非常に重大な過失や何度も警告(文書)を出しても改善がない場合に適用される。ここでは、警告が文書で正式に出されているか争う余地がある。


(2)労働者側:雇用条例第10条 ここでは、契約無効とは別に、無償で即時労働契約解除のできる状況が規定されている。この曖昧規定は、雇用開始時に限定されない、その後の状況でも適用できる。根拠の一つにはできる。


a) 暴力や感染、傷害の危険性がある場合。

b) 雇用主による酷い待遇を受ける。

c)同一の雇用主で5年以上働き、登録している西洋医学の医者による診断書で永久にその仕事に適さない場合。

e)労働者がその他の理由で、一般法の権限で予告期間を与えずに契約を解除できる場合。


ここでは、平等の様な体裁が取られているが、日本と違い労働者側にも予告手当が義務付けられているので、不利である上に、社会的に雇用契約解除は労働者側に不利にしか働かない。大人の責任は、他人の労働に対してもこの様な社会的責任を認識する所にある。この点が麻痺している者が多すぎる。


3.業務委託の労働者?雇用関係と請負関係


政府だけでなく、建設業、製衣業など、多くの香港の業界で業務委託は広がっている。この比率の増加が、労働者を業務委託する形で失業率の減少を演出しているが、香港の実相を反映する貧困率は増加の一途である。本来、失業率の低下は、貧困率の低下である場合に真である。実際は、真逆の現象が起きている。


幾つかの工程で、請負関係が存在しているが、工場、工業の工程に限定して考えない方がいい。この業務請負は、本来は企業が単位であるはずだが、労働者を業務請負の単位にする問題のフリーランス労働なるものが生み出されているので、この二つの単位は一体化して、手口の中で責任逃れの為に応用される。手口の上では、業務委託の企業と業務委託の労働者は同じ扱いで、業務委託である。


この業務委託の請負人は、包頭とか、判頭と呼ばれるが、企業単位と実質労働者単位の二つがある。彼らの身分は、彼らに雇用される労働者達と異なる身分である。彼らにさらに業務委託で雇われる所にさらに問題が生じる。


彼らは、独立して商売を営む者であり、労働者ではない。就業率には反映されないし、失業率にも反映されない存在である。つまり、業務委託では雇用条例の保障はない。そして、労災の申請は一切できない。


この元々事業を請け負う者が誰か特定ができなくなる問題が香港で典型である。それは、まずある兄弟チーム(兄弟班)として各労働者の前に現れるが、ある工程を請負処理する時は、皆で従事するが、一旦労働問題が発生すると、誰が責任を取るのか分からなくなる問題が起きる。責任のある元々の請負人に遡るのが困難になる。これは、多重派遣時の責任所在の不明の問題に類似している。


この業務委託か、労働者かの問題は、必然的に似非業務委託のフリーランス労働の問題と不可分である。業務委託の請負人にこれまた労働者として雇用されるのか、業務委託の労働として使用されるのかの分別が必須である。基本的な雇用形態の判別が必須になるのだ。


よく使われる語である外判とは、外部委託、アウトソーシングである。委託とは上記の請負である。その請負が業務委託関係か、雇用関係かの判別を必要とされるケースが多すぎるのである。請負人自体も実質労働者で、本当の請負人に該当する企業が他に指揮命令を与えているケースがある。


請負関係か、雇用関係か?


裁判所は、多くの要素を判断する。請負契約をしたから、請負関係になるとは限らない。法廷は、請負人が実質的に独立して事業を営んでいるか、あるいは雇用されているのかなどを問う。


幾つか、請負関係か雇用関係かの判別の指標がある。


1、雇用主と呼ばれる者が、その被雇用者と呼ばれるものの仕事に対して、雇用主としてあるべき支配・指揮権があるか?

2、被雇用者と呼ばれる者が、仕事に必要な道具を自ら有しているか?

3、被雇用者と呼ばれる者が、財政上のリスクを負う必要があるのか?またその程度や性質はどうなのか?

4、被雇用者と呼ばれる者が、自ら必要な労働者を雇っているか?

5、被雇用者と呼ばれる者が、その優秀な管理から利潤を得ているか?

6、被雇用者と呼ばれる者が、投資や管理の責任を負い、またその性質や程度はどうか?

7、被雇用者と呼ばれる者が、正確にその雇用主とされるものの商業組織の一員として判別されるものなのか?

8、被雇用者と呼ばれる者が、その方面の営利を営んでいるか?

9、雇用主と呼ばれる者が、その被雇用者と呼ばれる者について、保険や税務の責任を負っているか?

10、双方のこの関係に対する考えは?

11、この業界や専門の伝統的な構造や慣例に理解があるか?


請負人の責任:


請負人は、もし労働者を雇えば、雇用主である。雇用主は、雇用条例の中の労働者の各種福利や保障、例えば、有給休暇、医療手当、長期服務金等に責任を持ち、ある工程の請負をする場合、契約では内容や自身の身分を明記しなければ、契約後、雇用条例の全ての保障責任を一身に背負うはずが、問題発生時に逃げ出す事になる。香港でも最も不安定な雇用形態、問題の請負労働なるものを生み出している土壌がこの責任逃れなのである。搾取と責任逃れの手口に他ならない。


冠婚葬祭ベルコの業務委託問題と香港外判問題の比較


従来の個別の実質労働者と締結される業務委託契約の問題だけでなく、従来の各部門、店舗、支社、本社とが全て業務委託契約になって企業内関係が偽装されている。図:情報労連 
各個人、部門、店舗、支社、本社とが全て業務委託契約。図:情報労連 

個人請負、個人事業主、業務委託、請負業務、請負契約、フリーランスという契約形態は、往々にして実質的な労働者を労働法政の枠外に置く究極の搾取の形態である。そして、その契約は会社と会社に等しいし、会社と個人なのに、会社と会社の間でも業務委託契約でアウトソーシングとなり、会社の実質的な従業員なのに、業務委託契約で会社と個人事業主のアウトソーシングの関係になる。


この脱法形態は、マルクスもレーニンも想像もしていない資本主義の雇用問題の発展形態であり、人間の労働主体で考えられるその極端である。資本主義のこの領域の最終的な発展は、人工頭脳やアンドロイドで人間労働が葬られる段階だが、その前段階としては、もう限界点に到達しているのが見える。発展の可能性を出し尽くさない限り衰退しないのが社会である。


この冠婚葬祭大手のベルコは、ネオリベの最悪の搾取形態を全て総合した搾取と脱法の教科書の様な経営、雇用方式を採用して、不当解雇の裁判で解雇した二名の労働者に昨年末勝訴して危機的な社会問題になっている。


労働組合の結成を理由に解雇されたとして、ベルコの北海道内の代理店で働いていた元従業員二人が、同社に解雇撤回を求め札幌地方裁判所で係争中だ。この裁判や並行して進む北海道労働委員会の審理の中で明らかとなったのが、同社の徹底した「業務委託契約」の活用だ。(1)                     


これまでは多くが、個別の実質労働者と本来の雇用主との業務委託契約によるフリーランス労働なる違法形態が焦点であるが、ここに来てこれは木を見て森を見ない誤りだと分かった。なんと、そうした業務委託労働者の所属する店舗ごとと業務委託契約を本社が締結する事で、企業内関係を隠蔽し、その店舗ごと解雇する事でも、労働法制上の責任を一切負わずに解雇する手段を発展させている。


これは、労働法制だけでなく、会社法の問題にも跨出で入る。つまり、労働法としては隠蔽された実質的な雇用関係が問題になる。そして、会社法的には隠蔽された企業内関係が問題になる。


ベルコは、7千人の業務委託労働者は、単なる実質労働者というに留まらず、ここではマルチレベルマーケティング方式が応用され、保険会社の外交員方式やマルチ商法の代理店・ディストリビューター方式が運用されているので、その営業マンたちはマルチ商法の会員・ディストリビューターと同質である。そこでは、前もって受け取る掛け金を元手に、葬儀や結婚式などのサービスを提供する全国の「冠婚葬祭互助会」(互助会)とこの様なディストリビューター的な会員契約を結ぶ形態で、単なる一般的なシングルレベルマーケティングである小売業の店舗スタッフ形態ではない。


ベルコが昨年7月、監督官庁の経済産業省に提出した報告書によれば、全従業員7128人のうち、正社員はたった32人。残る7000人超は同社と直接に業務委託契約書を取り交わすか、取り交わした代理店主(支部長)と雇用契約を結んでいる。ただ原告側によれば、代理店主といっても名ばかりで、雇用される側も実態は業務委託と何ら変わらないという。(2)


マルチ商法では、一般リテールの会員制とは違い、自分の下にさらに契約をする会員を増やしてグループ形成していく事でボーナスと言われる手数料が入る。業務委託は、さらに際限なく業務委託契約ができ、それを増やしていることができる。ここでは、マルチ商法の会員があくまで個人事業主であり且つ消費者であり、会社側の営業は別で正社員スタッフが雇われていて、会員たちは会社に属していないのに対し、ベルコの業務委託労働者達はその境界線をなくしている。ハイブリッドになっている。ベルコの会員数は約2400万人と言う。全国シェアの半分を占める大企業である。業務委託の人数、量が質を変える。


同社の内部資料では、業務委託の対象となっているのは、互助会の会員募集を行う営業職にとどまらない。葬祭関連だと葬祭所長やホールの館長から施行スタッフまで、冠婚関連でも結婚式場の支配人からフロント担当者まで、すべて業務委託契約を結ぶことになっている。

それは間接部門の各地の支社でも同様だ。管理職であるはずの支社長や支社長代理、さらに現場の経理や消費者相談室のスタッフまで、一様に業務委託契約を結んでいる。(3)


これは、代理店の管理職だけでなく、その営業職員から全てが業務委託契約という事になる。上記の情報労連の表は、労働契約は、実質的な労働契約という主張に沿って掲載されている。実は、マルチ商法の会員契約も全てが業務委託、フリーランス契約状態である。ボーナスの支払いをするのだから業務委託の一種である。彼らの営利活動は会社との規約に基づいて行われるので、会社の実質的な営業マンである。この性質が全てを貫いている。


個人請負・フリーランスの実質労働は、残業代、最低賃金、有給休暇、解雇権濫用法理(解雇制限規定)、団体交渉権、医療保険としては、会社と折半する健康保険がない。雇用保険も労災保険(個人加入可)もない。あるのは、自主的に加入する全額負担の国民保険ぐらいしかない。また法律上は労働者ではないから、就業も失業もない。事業主という社会的な扱いになる。これは、労働者性の証明が労基法上の権利主張に必要になるが、困難なのは健康保険への遡及しての加入であるが、これは裁判で勝ち取るしかない。


労働法規を潜脱する目的の手口


これに対して訴訟を提起した元従業員は、「実際は頑張って長く働くほど収入が不安定になりかねない」という。(4)


労働者は、剰余価値を生んだ上に実は賃金相応のそれよりも多くの時間を働き、資本家に搾取されている。さらに、残業代やその他の福利の費用を抜きにして、無償で働けば働くほど、その労働者の1時間あたりの実質賃金は益々安くなっていくのである。これが、資本主義的な構造的貧困化である。商品生産の為の疎外された労働は、頑張れば頑張るほど益々自分の価値がチープになるのである。8時間労働制や残業代法制はこれに歯止めをかける為のものである。


代理店は互助会会員を獲得し、ベルコからの成約手数料で経営している。ただ一度支払われた後でも、解約されると、次の手数料からその半額程度が差し引かれる。そのため、「頑張って成果を上げて稼いでも、ベルコで働くかぎり、いつ差し引かれるかわからない。頑張った分、反動も大きい。これでは生活設計ができない」(元従業員)。(5)



解約に伴い、本社ベルコ側がこの代理店からその成約手数料の半分を各自から取り戻してしまい、その代理店単位の経営は困難になり、賠償による減給となる。労働基準法の賠償予定の禁止(16条)や賃金全額払いの原則(24条)、特に両者の違反が濃厚である。ここでも労働者性の証明は必須である。この二つの違法行為が混合されている。


この代理店という呼称は、マルチ商法では各ビジネスパートナーと呼ばれる会員個人を指す。ここでは、代理店というのが従来の小売のものではなく、外観はその様でも、業務委託の、マルチ商法的な代理店さんの概念の方に符合する。


「遺族をだますような仕事に疑問を感じるようになった」。ベルコとは別の北関東の大手互助会で葬祭館長を務めていた男性(59)はそう振り返る。

男性は当初、会員獲得の代理店として働いていたが、会社が従来は正社員が担っていた葬祭部門を代理店方式に切り替えたのを機に館長となった。「いつ仕事が入るかわからず、拘束時間が長い。まともに残業代を支払ったら大変なことになる。それで個人請負に切り替えられた」(男性)。

長時間労働以上に男性を悩ませたのが、互助会のプランに含まれる祭壇や棺をより高額な商品に変更する「ランクアップ」や、プラン外サービスの勧誘を会社から強要されたことだ。「別途10万円以上かかるエンバーミング(遺体衛生保全)の契約を取ることは事実上ノルマだった。嫌がる遺族に法律上必要とウソをついてまで、説得することはできなかった」(同)。

「周囲に請われて独立したが、経営が立ち行かなくなった」。さらに別の、関西大手互助会の元社員の男性(56)は悔やむ。男性はこの互助会に新卒で正社員として採用され、主に営業畑を歩んできた。好景気のときは800万円台の年収を得ていたが、経営者が変わり正社員の仕事は徐々に業務委託に切り替えられていった。

その結果、全盛期には600人程度だった正社員は数十人まで激減。「課長や部長など管理職に昇進すると退社し委託契約になることが求められた。嫌がる社員には不本意な異動をちらつかせて、転換を迫っていた」(別の元社員)。 (6)


自営業系独立オーナー? 雇用的自営業?

 

業務委託労働なるものは、この様に正社員、非正規をなくし、果ては全労働者をマルチ商法の会員とほとんど同質の働き手として外部化し搾取する脱法行為であり、搾取の極限化の違法形態である。もちろん、この形態は非正規よりも最悪の形態である。


しかも、この代理店の管理職もマルチ商法の会員の各グループのリーダーに等しい。自腹を切って売り上げに貢献するという賃金献上までノルマで追いやられて破産するものが出るのはマルチ商法そのものである。


業務委託間に人事異動命令などないはずなのに、人事異動に苦しめられた従業員はこう語っている。ここでは、労働者性、雇用関係、そして企業内関係が隠蔽されている。会員制は風呂敷に過ぎない。業務委託関係はこの互助会の仕組みで営利活動に励む会員契約も包括する。しかし、そこまでは日本国内は問題にしていない。あくまで7千人の業務委託労働の従業員達に限定して論じられている。


男性は転換を断ってきたが、同僚から強く請われ、2007年に葬儀のギフト関連の仕事を請け負うようになった。当初は順調だったが、会社から不振地域の担当を追加することを求められ、経営が悪化。昨年、個人破産を余儀なくされた。「独立といっても新しい客先を開拓できるわけではなく、顧客は元の会社だけ。無理難題でも受けざるをえなかった」。(7)


米国の労働力人口1億5700万人のうち35%、約5500万人がフリーランス


アメリカでは、フリーランスという言葉が日本よりも一般的な意識になっているが、それは半数近くがフリーランスの国だからである。日本でも政府はその2017年の「働き方改革実現会議」で、柔軟な働き方と言う名で「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会」を経産省に立ち上げさせた。中でも「個人事業主と従業員との境があいまいに」と言う点がこうした業務委託労働なるものを全面化していくのが資本主義のネオリベ的な傾向だと分かる。ベルコ裁判はそのパンドラの箱を開けるものである。安倍政権の影がその不可解な証拠を見ない無理押しの判決に見え隠れする。


二つの文書が、ブループリントの様に見える。


1、厚生労働省が昨年8月に出した報告書、「働き方の未来2035」


アメリカは、2020年には非正規半数ではなく、この様な個人請負が全体の半数を占め、日本では2035年を目指して急増しているのが現状である。香港でも、これは個人請負に近い418以下の非正規と個人請負の労働が増え、統計上の失業率を下げるが、貧困率が四人に一人が貧困の状態に到達している点と矛盾しない世界的なネオリベラリズムの趨勢である。


ベルコの問題を最も詳細にかつ正確に把握しているのは情報労連であり、以下の情報が正確である。


冠婚葬祭大手ベルコの東札幌支社に属する手稲支部(代理店)に雇用されていた従業員らが2014年12月、組合結成の準備を始めた。この動きを察知したベルコは支部長(代理店長)に組合結成を阻止するように指示。主要メンバーの2人が翌年1月に連合北海道地域ユニオン加盟の組合結成に踏み切ると、ベルコは支部長(代理店長)との契約を解除。主要メンバー2人を排除して、他の労働者を新規支部長(代理店長)に雇用させた。

主要メンバーの2人は、2015年7月に不当労働行為や不当解雇などを巡って札幌地裁に提訴。同年6月に北海道労働委員会に救済を申し立てた。また、ベルコに契約解除された元支部長(代理店長)も、自らの労働者性などを巡って札幌地裁に提訴した。 (8)


一度、リセットして直ぐに他者をこれまた業務委託で代理店長にして労働者たちを個人請負として雇用する再生速度が早いのに驚愕する。これは、内部労働市場を管理運用している本社の行為そのものである。この点でも実質的な企業内関係が隠蔽されている。


しかも、支部管理中心の支社と支部は、本来管理部門とその部門の関係で、ここでは業務委託関係ではないと言う。支店と支社が実際は重なり一体のものと捉えられている。


香港に見られる管理・人事業務のアウトソーシングの手法であり、この場合は支社がそうした管理・人事業務自体の外部委託先にされ、末端の労働業務(営業部)を行う代理店がこれまたそれに管理される外部委託先にされている。もちろん、支社と支店がさらに業務委託を結ぶと話がおかしくなるので、していない。この点がベルコ本社が両者を実質的に支配運営していることを示す。これは、派遣労働的な多重派遣や、偽装請負ではなく、むしろ企業内関係の隠蔽である。この点を突出させるのが以下の点である。


業務委託契約の乱用はこればかりではない。ベルコには、冠婚部、葬祭部、営業部という部署がある。営業部は、ここまで説明してきた支部(代理店)のこと。葬祭部は葬儀を担当する部署だ。この中に、葬儀の運営を担う葬儀会館が属する。葬儀会館の館長は、ベルコと業務委託契約を結ぶ個人事業主という扱いだ。

複雑怪奇なのはここからだ。葬儀の際、ご遺体を寝台車で搬送するには、いわゆる「緑ナンバー」が必要となる。実は、葬儀会館の館長は、「さくら運輸」というベルコ関連会社の従業員でもある。葬儀会館の館長は、ベルコの業務を請け負いながら、「緑ナンバー」を持つ、さくら運輸の従業員として寝台車を運転する、ということだ。さらに館長は、さくら運輸の従業員に葬儀の業務を再委託という形で発注していた。

さくら運輸側の主張はこうだ。さくら運輸の従業員たちは、ご遺体を乗せた寝台車を運転している時間だけが労働時間で、その他の時間は、ベルコから業務委託を受けた個人事業主として働いている時間だというのだ。さくら運輸は副業を認めているので、ベルコから業務委託を受けても問題がない、と。

これに対して労働組合は、「さくら運輸」の就業規則に基づく、始業・終業・所定労働条件の明示を求めるなどしてきた。

ベルコの葬儀館長も、支部(代理店)の支部長(代理店長)と同じく、ベルコが細かく業務管理をしている実態がある。このように見ると、ベルコが業務委託と指揮命令を巧妙に使い分け、使用者の責任を回避してきたことがわかる。 (9)


この業務委託の労働なる手口は、映像業界の現在の普遍的な働き方である。この様な違法形態は映像業界、とりわけテレビ業界に支えられている。そこでは、各人はこの様な個人請負契約をさせられ、しかも同一企業の本来の別部門が別会社、子会社扱いで、そこに委託すると言う不可解な形態を採る。しかもどちらの業務も受け持つ場合がある。ここでも企業内関係が隠蔽され、責任の所在が曖昧にされている。


以下の言に労働者階級の利害と声が完璧に反映している。


原告代理人の淺野高宏弁護士は、こう解説する。


「今回の裁判でベルコの業務委託契約を乱用する手法が認められれば、契約書の形を整えさえすれば、企業は労働法の適用を受けなくても済むようになります。ノルマを課して長時間労働をさせることも、解雇という言葉を使わず契約を解除することも簡単にできてしまう」


「ベルコの場合、どの角度から見ても実態は雇用です。それを業務委託契約という形式に書き換えています。これでは雇用が雇用ではなくなってしまう。もっと根源的に言えば、雇用されて働くとは何か、労働者とは何かという問いをこの事件は突きつけています」


全ベルコ労組の高橋委員長は「組合を立ち上げたのは、あくまで職場の働き方を改善して、良好な労使関係を築くためです。私はこの仕事を人の最期を見守る大切な仕事だと思って、一生懸命働いてきました。ベルコの手法は葬儀業界にまん延しています。業界のあり方を見直すべき時期に来ています」と訴える。 (10)


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香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項


1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。

2、もし、雇用主に解雇された場合、いかなる文書にもサインしないこと。また、何かにサインする前に、自身に不利ではないかまず内容をよく見ること。不明な点は、質問しはっきりさせ、解答が不明瞭ならばサインは拒否するべきである。つまり、理解できないものは拒否すること。下劣な香港マネージメントは手口としてあからさまな詐欺を働く場合もあり、それはサイン無効として追究する道を開く。ここで、重要なのは、サインした全ての公式、非公式の文書はコピーを要求する権利があり、コピーを渡さないならばサインしないことである。このような卑猥な資本主義の犬に屈するくらいならばサインや合意を破棄するべきである。その方が労働者の精神的利害及び社会的契約上の権利の実現と言える。日本の求人詐欺の手口は基本的に香港でも存在している。多くの多国籍企業のアジア太平洋地区の本部は香港であり、人事部が実は香港という大企業も少なくない。手口自体の共通性はここから来ている。

3、紙媒体か電子媒体かを問わず、全ての企業関連の文書を保存すること。これは、雇用契約書から、就業証明、給与支払報告書、税報告書、解雇通知書などを含み、その後労働者の受けるべき権益を要求する基礎になる。


References


1.《勞資審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!zh-Hant-HK

2.香港法例第57章《僱傭條例》僱傭保障Q&A http://www.labour.gov.hk/tc/faq/cap57k_whole.htm

3.勞資審裁處表格 http://www.judiciary.hk/tc/crt_services/forms/labour.htm

4.勞資審裁處條例 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!en

5.第338章 《小額錢債審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap338

6.Cap. 347 LIMITATION ORDINANCE https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap347!en?INDEX_CS=N

7.Cap. 149 General Holidays Ordinance https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap149

8.判例集 https://www.elegislation.gov.hk


雇用条例の全文は、以下の二つのリンクが有用である。日本語は、完訳済みである。


English: https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap57

Chinese: https://www.labour.gov.hk/tc/public/ConciseGuide.htm


Statements


This series of articles about HK labor issues is written by Japanese due to supporting Japanese workers in Hong Kong where differs from Japanese working environment. Moreover, there is no labor consultant for Japanese workers in Hong Kong while facing blood sucking Japanese recruit agents and overseas Japanese 'Black Kigyo' (Evil Companies). Any part of this report may be disseminated without permission, provided attribution to Ryota Nakanishi as author and a link to www.ryotanakanishi.com is provided.


注意:香港には、日本人のための労働相談所はない。また、総じて労働問題対策の出版物は皆無に等しい。日本語だけでは、極めて危険な状態である。香港でも会社の人事部、就職エージェントや企業の人事コンサルタントなどはすべて行為において資本家側であり、自分たちも労働者であるのに、むしろ労働者と敵対するので、要注意だ。会社外の労組へ相談するべきだ。香港では日本人で労働問題を論じている者がいないと言うことはできない。私は永久に労働者階級のために階級闘争を戦う。階級闘争とは、労働者の階級的利害のための一切の社会的な闘いである。


香港労働 Hong Kong Labor Issues
Ryota Nakanishi's Hong Kong labor law knowledge was qualified by professional examination by HKFTU in 2019.
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